・・・第五門、編年、家記、伝記、考証、地理。第六門に叢書、類書等を総括している。漢書之部も、第一門が四書、五経や孝経、儒家、諸子、西教等を包括している。 今日の図書館員の目から見れば、此那大ざっぱな、まとまりのない目録は稚拙の極で、小規模の箇・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
・・・日本の文学も私小説の時代を経て社会小説の黎明に入ったともいわれたのであったが、そこには極めて微妙な時代的好尚の影がさしこんだ。横光利一の純粋小説論が、文学の本質として現実追随の通俗性に堕さざるを得ない理由は先に簡単に触れた通りである。この社・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ ソヴェト市民が欲しがっていたのは、ハァハァと陽気闊達に笑う哄笑であり、仲間の脇腹を突つきながら、快心をもって破顔する公明正大な笑いであったのだろう。ソヴェト市民の生活感情に、そういうユーモアがないならば、イリフ、ペトロフ二人のような辛・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・リゲンチアの知的自慰にすぎぬ不安の文学が、当然の結果として夢想しているように強烈な、ヨーロッパ的立体性をもった内容の新しい心境文学を創り出すことができないでいる間に、いい加減に残されていたリアリズムの高唱、明治文学再評価がかえって実際の実を・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・う強引な結論と政策によって今日圧殺されているのであるし、知識人の一部は、所謂進歩的といわれる知識人達が求めているような合理性や人間性の自覚とその発露の要求は民衆の心持の日常から遊離した夢、公式であると高唱して、知識人みずから人間的知性の殺滅・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・の舞台の牧歌的朗らかな恋愛表現、哄笑的ナンセンスとの対照。又「D《デー》・E《エー》」の黒漆でぬたくったような暗い激しい圧力と「吼えろ! 支那」の切り石のような迫力との対照は、メイエルホリドがひととおりの才人でないことを知らされる。「お・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・淑貞の「顔一杯の嬌笑、それは驚きと喜びと情熱の哄笑です。生々とした眸、むき出された雪白の歯、こうした笑いをC女史は十年この方絶えて見たことがありませんでした」戦慄が、C女史の体を貫いて走った。名状しがたい感激がわき上った。「驚きではない、怒・・・ 宮本百合子 「春桃」
数あるトルストイの伝記の中でも、このビリューコフの『トルストーイ伝』は、資料の豊富なことと考証の正確な点で、最も基礎的な参考文献であろう。これまであらわれたトルストイ研究は、その土台を何かの意味でビリューコフの伝記において・・・ 宮本百合子 「『トルストーイ伝』」
・・・等は精密を極めた考証とともにしらべられて、それぞれの見解はその道の人々にとっての一大事とされている。私たちはそういう或る意味では煩瑣な芭蕉学から離れ、きょうのこの心のままで彼の芸術にふれてゆくのであるが、それなりに生々とした感銘をうけ、感覚・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・ 食う心配はなくなったけれども、公証人の収入と小説家の収入とを敏感にくらべている両親を納得させ独立するために、金はやっぱり自身のペンで稼がなければならぬ。ヴィルパリジェスに住んだ四五年の間に、バルザックは、或るものは独りで、或るものは友・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫