・・・講演會に於いて、堯舜禹の實在的人物に非ざるべき卑見を述べてより已に三年、しかもこの大膽なる臆説は多くの儒家よりは一笑に附せられしが、林〔泰輔〕氏の篤學眞摯なる、前に『東洋哲學』に、近く『東亞研究』に、高説を披瀝して教示せらるゝ所ありき。・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・私もさっそく四人の大学生の間に割込んで、先生の御高説を拝聴したのであるが、このたびの論説はなかなか歯切れがよろしく、山椒魚の講義などに較べて、段違いの出来栄えのようであったから、私は先生から催促されるまでも無く、自発的に懐中から手帖を出して・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・筒井氏の調査によると、冬季降雪の多い区域が、若狭越前から、近江の北半へ突き出て、V字形をなしている。そして、その最も南の先端が、美濃、近江、伊勢三国の境のへんまで来ているのである。従って、伊吹山は、この区域の東の境の内側にはいっているが、そ・・・ 寺田寅彦 「伊吹山の句について」
・・・ この律動的編成の巧拙の分かれるところがどこにあるかと考えてみると、これはやはりこの画面に現われたような実際の出来事が起こる場合に、天然自然にアルベール、すなわち観客の目があちらからこちらへと渡って歩くと同じリズムで画面の切り換えが行な・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・編集の巧拙などはほとんど問題にしなくてもよいかと思われる。 十五 吼えろヴォルガ 「燃え上がるヴォルガ」(俗名、吼を見た。映画はそれほどおもしろいとは思わなかったが、その中でトロイカの御者の歌う民謡と、営舎の中の群集・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・しかし実際はこの場合の巧拙を決定するものはほんのわずかな呼吸である。画面連続の時間的分配を少しでも誤れば効果は全然別のものになるであろうと思われる。要するに「かん」だけの問題である。 ナンセンスの中にのみほんとうの真実が存するという人が・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・ 池の表面の氷結した上に適度の降雪があった時に、その面に亀甲形の模様ができる、これには、一方では弾性的不安定の問題、また対流の問題なども含まれているようであるが、この亀甲模様の亀甲形の中心にできる小さな穴から四方に放射して、「ひとで」形・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・ 横井礼市。 この人の絵はうるさいところがなくてよい。涼しい感じがある。この人の絵の態度は行きつまらない。どこまでも延びうると思う。 湯浅一郎。 巧拙にかかわらず一人の個人の歌集がおもしろいように個人画家の一代の作品の展覧はいろいろの意・・・ 寺田寅彦 「昭和二年の二科会と美術院」
・・・一首一首の巧拙などはもちろんよく分らなくても、全体として見たときに感ずる一種の雰囲気のようなものがあって、それが色々暗示を与えるからであります。連作にもいろいろありましょうが、例えば雪なら雪をいろいろの角度からいろいろの距離で眺めたものも面・・・ 寺田寅彦 「書簡(2[#「2」はローマ数字2、1-13-22])」
・・・ドイツでは一八九九年以来高層気象観測所を公設し、ことにカイゼル自身がこの方に力瘤を入れて奨励した。カイゼルの胸裡にはその時既に空中襲英の問題が明らかに画かれていたと称せられている。これに反して英国で高層観測事業が一私人ダインスの手から政府に・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
出典:青空文庫