・・・母は性来余り動物好きではなかったし、父は、全然無頓着な方であった。後年、鴨、鳩、鶏がかなり大仕掛けに飼養された前後にも、猫と犬とは、私共の家庭に、一種の侵入者としての関係しか持たなかった。 私は、猫の美と性格のある面白さを認めはするが、・・・ 宮本百合子 「犬のはじまり」
・・・大きくなって見直せば、そのピアノは日露戦争の時分旅順あたりにあったものを持って来たもので、おそろしい時代ものの上に、こわれたところを修繕して全く色の違う木がところどころにうめてあるという品物であった。後年父や母は笑いながら、だってお前、あれ・・・ 宮本百合子 「親子一体の教育法」
・・・シュレジアの地主と工場主と軍隊が流した織匠の血は、すべての人々の胸のうちに正義の憤りをもえたたせた。後年、ハウプトマンが有名な「織匠」にこの悲劇を描いた。ハウプトマンの「織匠」を観劇して、おさえられない感銘からケーテ・コルヴィッツが彼女の代・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・没した日は明治三十七年一月十日で、行年八十二歳であった。寺は其角と同じく二本榎上行寺である。」文淵堂の言に従えば、わたくしの記事には誤がなかったらしい。猶考うべきである。 香以のその他の友に関して、近隣の梅本高節さんは語った。「香以の友・・・ 森鴎外 「細木香以」
出典:青空文庫