・・・出て行くとき彼女は長い廊下を見送る看護婦たちにとりまかれながら、いささかの羞ずかしさのために顔を染めてはいたものの、傲然とした足つきで出ていった、それは丁度、長い酷使と粗食との生活に対して反抗した模範を示すかのように。その出て行くときの彼女・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・七歳の時にはさらに阿波の国司がこのことを聞いて、目代から玉王を取り上げ、傍を離さず愛育したが、十歳の時、みかどがこれを御覧じて、殿上に召され、ことのほか寵愛された。十七の時にはもう国司の宣旨が下った。ところが筑紫へ赴任する前に、ある日前栽で・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・例えば中岡良一を賞讃して、彼はまことに国士であった、志士であった、というようなことを言い出さぬとも限らぬ。それは暗殺の煽動である。巡査が来て彼を過激思想宣伝者、直接行動煽動者として警視庁へひっぱって行く。 どうもこれでは困る。それよりも・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫