・・・尤もこの考えている事というのが、告白であるかないか、矯飾をしていないかという疑問が直ぐに伴って来る。もっと立ち入って云えば、自分では云々と考えていると思っても、それは自ら欺いている、即ち自己のために自己を矯飾しているのかも知れない。そんな風・・・ 森鴎外 「Resignation の説」
・・・その男の告白によると、「僕は夢と云うものをまだ生れてから見たことがない。」と云う。 私にはそれが嘘だとより思えなかった。が、彼はどうかして一生に一度夢と云うものを見たいとしきりに云った。私はこれが「夢を見たことのない男」だと思うと、・・・ 横光利一 「夢もろもろ」
・・・五 告白の欲望はともすれば直ちに製作衝動と間違えられる。もとより体験の告白を地盤としない製作は無意義であるが、しかし告白は直ちに製作ではない。告白として露骨であることが製作の高い価値を定めると思ってはいけない。けれどもまた告・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・一人の求道者の人間知と内的経路との告白を聞くのである。九 利己主義と正義、及びこの両者の争いは先生が最も力を入れて取り扱った問題であった。『猫』は先生の全創作中最も露骨に情熱を現わしたものである。それだけにまた濃厚な諧謔・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
・・・ 苦患に背を向け、感傷的に慟哭し、饒舌に告白する。かくしてもまた苦患の終わりを経験することはできる。しかしそれを真に苦しみに堪えたと呼ぶことはできない。 卑近の例を病気に取ってみよう。病苦は病の癒えるまで、あるいは病が生命を滅ぼすま・・・ 和辻哲郎 「ベエトォフェンの面」
出典:青空文庫