・・・ここには炊事場、フロ場、洗濯場、裁縫場などがあります。 炊事当番の少年少女が、太って大きい炊事がかりの小母さんの手伝いをしてアルミの鉢を洗っている。小母さんは、漏れ手で元気に働いている子供たちを示しながら、「どうです? ソヴェトのピ・・・ 宮本百合子 「従妹への手紙」
・・・何故なら、今日の発達した資本主義の国の生産の中でも紡織、裁縫の中で最も苦労しなければならないのは、婦人たちであるのだから。紡織は、イギリスで蒸気の力で紡績機械を運転することを発見して産業革命があって後、繊維産業というものが世界中ですっかり変・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
一 インガ・リーゼルは三十歳である。 彼女は知識階級出の党員で、今は裁縫工場の管理者として働いている。大柄な器量よしで、彼女の眼や唇は彼女の精力的な熱情を反映する美しい焔のように見える。 ・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・退屈きわまる裁縫室の外には、ひろい廊下と木造ながらどっしりしたその廊下の柱列が並んでそういう柱列は、表側の上級生の教室のそとにもあった。日がよく当って、砂利まで日向の香いがするような冬のひる休み時間、五年生たちがその柱列のある廊下の下に多勢・・・ 宮本百合子 「女の学校」
・・・左には、充分光線の流れ込まない、埃っぽく暗い裁縫店の大飾窓。板硝子の上の枠に、ボウルドフェイスの金文字で、YAMAZAKIと読めた。 西角は、ひどく塵のたかった銀行の鉄窓と、建築にとりかかったばかりの有名な時計屋の板囲いとに、占められて・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・ 僅かながら年々絶えず出版されていたのは家事・家政・料理・育児・裁縫・手芸などの本で、それにしろ程度から云うと大体は補習書めいたものが多い。 これらの状態を、ひとめでわかる統計図にして、今日の日本の若い女性たちが眺めたら、彼女たちは・・・ 宮本百合子 「女性の書く本」
・・・ 辻馬車が、国営衣服裁縫所製のココア色レイン・コートを幾枚も束にして膝へ抱え込んでいる若者をのせてやって来た。まいたように人の姿が黒く広場の反対のはずれに現れ、いそがしそうに各方面に散らばった。広場の上ではひとりでに大きい星形を描いて通・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ 関東大震災のときも、本郷は大丈夫であった。西方町という火事なしが名物の一区画さえある。本郷も随分変化して、いくらかあぶなっかしくはあるかもしれないが、先ずそれもあとのこと。火事と空襲とは別箇のものと十分知りながら、わたしも本郷安全説に・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・巴里へ出てからは十九歳の裁縫女として十二時間労働をし、そのひどい生活からやがて眼を悪くして後、彼女は自家で生計のための仕立ものをしながらその屋根裏の小部屋の抽斗の中にかくして、「ただ自分一人のために」小説をかきだした。それが「孤児マリイ」で・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・二十歳前後でベルリンにいた頃は、ある裁縫をする小娘といきさつがあって、一緒に住んでいたバクウニンを大分煙ったく思った経験があるらしい。 ヴィアルドオ夫人と知ってから後もロシアに住んでいた五〇年代の初め三年間ばかり、ツルゲーネフは非常な美・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
出典:青空文庫