・・・ドモ又、おまえが描いたという画はなんでもかんでも持ち出してサインをしろ。そうして青島、おまえひとつこの石膏面に絵の具を塗ってドモ又の死に顔らしくしてくれ。それから沢本と瀬古とは部屋を片づけて……ただし画室らしく片づけろよ。芸術家の尊厳を失う・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・製の杯、というよりか常は汁椀に使用されているやつで、グイグイあおりながら、ある者は月琴を取り出して俗歌の曲を唄いかつ弾き、ある者は四竹でアメリカマーチの調子に浮かれ、ある者は悲壮な声を張り上げてロングサインを歌っている、中にはろれつの回らぬ・・・ 国木田独歩 「遺言」
・・・映画ファンならば、この辺でプロマイドサインを願う可きと存候え共、そして小生も何か太宰治さま、よりの『サイン』に似たもの、欲しとは存じ候え共、いけませんでしょうか。御伺い申上候。かかる原稿用紙様の手紙にて、礼を失し候段、甚謝仕候。敬具。十二月・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・サインを消せみんなみんなの合作だおまえのもの私のものみんなが心配して心配して やっと咲かせた花一輪ひとりじめは ひどいどれどれわしに貸してごらんやっぱりじいさんひとりじ・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・急に暑くなった日に電車に乗って行くうちに頭がぼうっとして、今どこを通っているかという自覚もなくぼんやり窓外をながめていると、とあるビルディングの高い壁面に、たぶん夜の照明のためと思われる大きな片かなのサインが「ジンジンホー」と読まれた。どう・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
○一つ橋外の学校の寄宿舎に居る時に、明日は三角術の試験だというので、ノートを広げてサイン、アルファ、タン、スィータスィータと読んで居るけれど少しも分らぬ。困って居ると友達が酒飲みに行かんかというから、直に一処に飛び出した。いつも行く神保・・・ 正岡子規 「酒」
・・・一平さんが、人生漫画を描いていられる頃であったか、カルピスは初恋の味というような文句のついたユーモラスな絵が一平画とサインされてあったのは新聞などで見かけていたのだろう。そのカルピスが、かの子さんによって重々しく出されたので、そこに又ユーモ・・・ 宮本百合子 「作品の血脈」
・・・という号をつかい、隷書のような書体でサインして居る。 書簡註。父は当時三十七歳。旧藩主上杉伯の伴侶としてイギリスに旅立った。留守宅の収入は文部省官吏とし月給半額。妻と三子あり。高等学校の学生であった頃から父の洋行したい・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・ やはり、オリンピックに関してであるが、女学生のサインを求める傾向について、要路お歴々の座談記事がのったことがあった。オリンピックで東京へ来た各国選手にのぼせて、サインを強要したり、恋愛事件をおこしたりしては国の恥であるから、そうい・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
出典:青空文庫