・・・綾や絹は愚な事、珠玉とか砂金とか云う金目の物が、皮匣に幾つともなく、並べてあると云うじゃございませぬか。これにはああ云う気丈な娘でも、思わず肚胸をついたそうでございます。「物にもよりますが、こんな財物を持っているからは、もう疑はございま・・・ 芥川竜之介 「運」
・・・かっとしたのは新蔵で、さてこそ命にかかわると云ったのは、この婆の差金だろうと、見てとったから、我慢が出来ません。じりりと膝を向け直すと、まだ酒臭い顋をしゃくって、「大凶結構。男が一度惚れたからにゃ、身を果すくらいは朝飯前です。火難、剣難、水・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・ と、きくと、実は砂金の鉱区が売物に出ているという。銀主を見つけて、採取するのもよし、転売しても十倍の値にはなるとの話に、丹造の眼はみるみる光り泪一つこぼさず、三味線の心得あるを倖い、お千鶴をしかるべきところへ働きに出した。そして砂金の・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・そして、ゼーヤから掘りだしてきた砂金を代りにポケットへしのばして、また、河を渡り、国外へ持ち去った。 今は酒は珍らしくはない。国内で作られている。 今は、五カ年計劃の実行に忙がしかった。能率増進に、職場と職場が競争した。贅沢品や、化・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・快活らしい元気な表情の中には、ただ、ゼーヤから拾ってきた砂金を掴み取り、肌の白い豊満な肉体を持っているバルシニヤを快楽する、そのことばかりでいっぱいだった。 永井は、ほかの者におくれないように、まっしぐらに突進した。着剣した、兵士の銃と・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・たとえば、太古より消える事のなかった高峯の根雪、きらと光って消えかけた一瞬まえの笹の葉の霜、一万年生きた亀の甲、月光の中で一粒ずつ拾い集めた砂金、竜の鱗、生れて一度も日光に当った事のないどぶ鼠の眼玉、ほととぎすの吐出した水銀、蛍の尻の真珠、・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
出典:青空文庫