・・・「じゃナポ公、さよなら!」「御機嫌好う、白のおじさん! さようなら、さようなら!」四 その後の白はどうなったか?――それは一々話さずとも、いろいろの新聞に伝えられています。大かたどなたも御存じでしょう。度々危い人命を・・・ 芥川竜之介 「白」
・・・じゃさよなら。一同かわるがわる握手する。花田 ともちゃん、おまえは俺たちの力だった、慰めだった、お母さんだった、かわいい娘だった。おまえと別れるのは俺たち全くつらいや。だからおまえの額に一度だけみんなで接吻するのを許してお・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・此質問一ヵ条を持出して、『目録は出来ていません』と答えると直ぐ『さよなら』と帰って了った。 見舞人は続々来た。受附の店員は代る/″\に頭を下げていた。丁度印刷が出来て来た答礼の葉書の上書きを五人の店員が精々と書いていた。其間に広告屋が来・・・ 内田魯庵 「灰燼十万巻」
・・・「しかし、今は歌が……」 好きになりましたよと言い掛けた途端、発車のベルが鳴り、そして汽笛の響きが言葉を消してしまった。 そして、汽車が動きだした。「さよなら」「さよなら」 白崎は、ああ、俺は最後に一番まずいことを言・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・と呟いて、東京にさよならしたのである。反感をもたれても、致し方ない。 故郷の大阪へ帰った私は、しかしお園のように、「去年の秋のわづらひに、いつそ死んでしまつたなら」などと、女々しくならずに、いそいそと新しい大阪という夫のふところに抱・・・ 織田作之助 「東京文壇に与う」
・・・殆ど喜死しました。さよなら、御返事をお待ちしています。三重県北牟婁郡九鬼港、気仙仁一。追白。私は刺青をもって居ります。先生の小説に出て来る模様と同一の図柄にいたしました。背中一ぱいに青い波がゆれて、まっかな薔薇の大輪を、鯖に似て喙の尖った細・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・それとも手紙下手であるか。さよなら。 これは別なことだが、いまちょっと胸に浮んだから書いておく。古い質問、「知ることは幸福であるか」 佐野次郎左衛門様馬場数馬。 二 海賊ナポリを見てから死ね! ・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・しかし、それでも私は、まださよならが言えなかった。「遊びましょう。何かプレイの名案が無いですか?」 と、気持とまるで反対の事を、足もとの石ころを蹴って言った。「わたくしのアパートにいらっしゃいません? きょうは、はじめから、その・・・ 太宰治 「父」
・・・「ちッと、おひまの時いらしッて下さい。さよなら。」 電車は桜橋を渡った。堀割は以前のよりもずッと広く、荷船の往来も忙しく見えたが、道路は建て込んだ小家と小売店の松かざりに、築地の通りよりも狭く貧しげに見え、人が何という事もなく入り乱・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・祖母さんはぼくにお守りを借してくれた。さよなら、北上山地、北上川、岩手県の夜の風、今武田先生が廻ってみんなの席の工合や何かを見て行った。一九二六(、五、一九、〔以下空白〕五月十九日 *・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
出典:青空文庫