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・・・こんな死にぞこないの、油虫みたいな奴は、どこへへたばりさらすか知れるかい。」「もう止さえせ。昼日中喧嘩して!」とお留は口を入れた。「お母ア、黙っとりゃええんじゃ。」「秋公頼むわ。どこへでもええで寝さしてくれよ。」と安次は云った。・・・
横光利一
「南北」
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・・・梶はまたすぐ、新武器のことについて訊きたい誘惑を感じたが、国家の秘密に栖方を誘いこみ、口を割らせて彼を危険にさらすことは、飽くまで避けて通らねばならぬ。狭い間道をくぐる思いで、梶は質問の口を探しつづけた。「俳句は古くからですか。」 ・・・
横光利一
「微笑」