・・・勿論まだ何ら纏った結果を得た訳ではないが、少しばかり考えた断片的の結果を左に記して、専門家やまた土佐の歴史に明るい先輩諸氏の示教を仰ぎたいと思う。 誤解をなくするために断っておきたいと思う事は、左に地名と対応させた外国語は要するにこじつ・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・上述の未熟な所説についてはさらに考え直さなければならない不備の点も多いことと思われるので、それらの点については読者の示教を仰ぎたいと思うのである。 三 連句と合奏 連句の文学的作品としての著しい特異性の一つと見る・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・論より証拠、先ず試みに『詩経』を繙いても、『唐詩選』、『三体詩』を開いても、わが俳句にある如き雨漏りの天井、破れ障子、人馬鳥獣の糞、便所、台所などに、純芸術的な興味を托した作品は容易に見出されない。希臘羅馬以降泰西の文学は如何ほど熾であった・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・ 市中行賈の中、恰も雁の去る時燕の来るが如く、節序に従って去来するものは、今の世に在っても往々にして人の詩興を動かす。遅桜もまだ散り尽さぬ頃から聞えはじめる苗売の声の如き、人はまだ袷をもぬがぬ中早くも秋を知らせる虫売の如き、其他風鈴売、・・・ 永井荷風 「巷の声」
・・・そのたびたびわたくしは河を隔てて浅草寺の塔尖を望み上流の空遥に筑波の山影を眺める時、今なお詩興のおのずから胸中に満ち来るを禁じ得ない。そして恨然として江戸徃昔の文化を追慕し、また併せてわが青春の当時を回想するのである。 震災の後わたくし・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・ きっと貴女の持っていらっしゃる詩興、詩趣によるものでしょう。結婚と云うものに対し、愛の発育と云うものに対し、抱いていらっしゃる貴女の全人的な趣味も其処にかなり多くの起因を持っているのではありませんでしょうか。 私も、女性が――人間・・・ 宮本百合子 「大橋房子様へ」
・・・ 天保さんの結婚 神学校、司教の息子、いつまで経っても卒業せず。シベリアへ通弁。青森の大金持の男、信者、娘一人、後とりの後見もして欲しいから学問があって、人物の出来た人、 そこで、結婚ブローカーがあって、「そ・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・――彼らが朝夕その偶像の前に合掌する時、あるいは偶像の前を回りながら讃頌の詩経を誦する時、彼らの感激は一般の参詣者よりもさらに一層深かったに相違ない。 私はこの種の僧侶のうち、特に天分の豊かであった少数のものが、単に「受くる者」「味わう・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫