・・・知事や大臣にはなれなくても、せめて軍人になれば出世は力次第だから。」という親心と息子の心を吸収して、百姓の息子でも、軍人ならば大将にだって成れる道として、軍国日本に軍人の道が開かれていたのである。日本の大学は、人類の理性と学問に関するアカデ・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・気魄ということは芸術の擬態、くわせものにまでつかわれるものであるが、これらの場合の進退には、そういう古典的意味での伝統さえ活かされていないのはどういうのであろう。 六月某日。 オペラの「蝶々夫人」を今日の日本人が見て、非現実的に感じ・・・ 宮本百合子 「雨の小やみ」
・・・ さほ子は良人には行かれ、一方からは千代のあでやかな白い顔が現れるのを見ると、愈々進退谷まった顔になった。彼女は、真正面に目を据え、上気せ上った早口で、昨夜良人と相談して置いた転地の話を前提もなしに切り出した。 彼女のむきな調子には・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・ 若しその朋友が、秀でた叡智と洞察とを以て人間を見得る人なら、事は未然に防がれると同時に、自己の進退を弁えていましょう。 けれども、人間は、必ずいつも正義によって行動するものとは定っていません。 その人が、それによって自分を愛し・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・が、八月十五日から数日たってやっと降伏した知らせが届いた満蒙奥地の開拓移民団の正直な老若男女が、ことの意外におどろいて数百名の生死を賭す団の進退をうちあわせようと駆けつけたときには、もうどこにも関東軍の影はなかった。そのために、うちすてられ・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・青野氏が自身の解釈に従って自身進退せられることは、もとより氏の主観的な自由である。しかし、それが必ずしも客観的な望ましき内容に於ける闊達自在の活動であるかどうかということに就いては自ら異る見解もあろう。 プロレタリア作家の文学に於ける任・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ 斎藤国警長官の進退をめぐって政府と公安委員会が対立し、公安委員会は斎藤氏の適格を主張し、ついに、政府は静観となった。この事件も、下山氏の死にからんで強行されようとした何かの政界の失敗であり、この失敗そのものが、逆に下山氏の死の微妙ない・・・ 宮本百合子 「「推理小説」」
・・・СССРが、農村の集団化、集団農場を中心として社会主義的建て直しをやろうとしている時、農村ソヴェトの進退は、重大な意味をもっている。その農村ソヴェト選挙に当って活動する農村の女が、では農村ソヴェトの実際的な使命をどう理解しているかということ・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ 三月頃に一寸電話をかけてよこして「この頃、私大事業を起したんだから」なんて云って居たっきり、別に私も気にかけなかったし、自分の用事がたまって居たんで苦しい事をして会おうとは思って居なかった。 それから、時々、美術学校へ行く伯父さん・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・ 平常から非常に母に対して情深い子で、人混みの中や等に出ると、その小さい手と足で自分の至大な母に迫って来る乱暴者をつけのけ様とし、顔を赤くし、小さい唇を噛(いしばって、自分の力の充分でない事を悲しみながら尊い努力を仕つづけるのです。・・・ 宮本百合子 「二月七日」
出典:青空文庫