・・・ 坪内先生が死なれて、私はあちらこちらから感想をもとめられましたが、先生と私との間には所謂師弟としての絆は浅くあったし、年の差以上の差が互の歴史性の上にあり、『文芸』にそのような短いものを書いたきりです。坪内先生の生涯を考えるにつけ、様・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・だが今日、毎日ちゃんと通学している学生が、殆ど有産階級の子弟だということは、民主日本の建設にとって、どういう重大なマイナスであろう。学生も食うために闇屋さえやっている。憲法で云われているだけでは駄目である。実際の可能を作って行かなければ、教・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・何故ならば、上述のような希望と意志とで生きようとさえすれば直ちに、響きの物に応ずるように、愛すべくよろこぶべき対手が出現するかというに、遺憾ながらこれも決して、波荒き現実の中で指定席は持っていないからである。恋愛に於て、理想とする対手にめぐ・・・ 宮本百合子 「成長意慾としての恋愛」
・・・ 自分とT先生との心持 自分とT先生との心持――寧ろ、自分のT先生に対する心持は深く、強く、ごまかし難いものだ。 師弟の関係に於て何かのよいきっかけを見つけ、書きたい。 この心持、佐藤春夫の見失われた白鳥の話にあ・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・彼等は皆紳商の子弟にして所謂ゼントルマンたるの資格を作る為め、年々数千金を費す」中略「彼等は午前に一二時間の講義に出席し、昼食後は戸外の運動に二三時間を消し、茶の刻限には相互に訪問し、夕食にはコレヂに行きて大衆と会食す。」とそして、そのよう・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・従って、先生と自分との間には、嘗て一度も、互を結ぶ師弟の愛について、熱情的な言葉は交されなかった。沈黙のうちに、私は全く先生への尊敬と帰服とを感じ、先生が、自分にかけていて下さる篤い心を、日光に浴すように真心から感じていたのである。 あ・・・ 宮本百合子 「弟子の心」
・・・いわゆる名門の子弟を教育する学習院は、そのころから伝統的な貴族や学者の子弟ばかりでなく金力であがなった爵位で貴族生活の模倣をたのしむものの子供や多額納税という条件で入学の可能な家庭の子供もふくんでいたのであったから、漱石の権力・金力と人間性・・・ 宮本百合子 「日本の青春」
・・・その侯爵令嬢が、ほかならぬ故東郷元帥の孫娘であったことは、世間の視聴をそばだてしめた。 良子嬢が、浅草のカフェー・ジェーエルで、味噌汁をかけた飯を立ち食いしつつも朗らかに附近のあんちゃん連にサービスし人気の焦点にあったという新聞記事をよ・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・ 良子嬢が東郷元帥の孫としてのつまらない生活の反対物をカフェーに見出したところに、子供のうちから消費生活にだけ馴らされた娘の気分と、今日の貴族階級が生活感情の実質においては、赤化子弟に対する宗秩寮の硬化的態度に逆比例するデカダンスや低俗・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・を禁じて単なる鑑賞批評だけを許したことは、当時世界の視聴をその極端性でおどろかしたが、この非文化的な宣言を敢てしなければならないほど、ドイツの民衆の間には、自分の声で、人間らしい理性の具わった言論を求め、またその要求に応えているものが一方に・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムの諸相」
出典:青空文庫