九月一日の夕刊に、物々しい防空演習の写真と一緒に市電整理案が発表された。全従業員一万八百人を全部解雇、改めて新規定の四割減給で採用し、八百五十万円を浮かして、永年にたまった八百万円の赤字を一気にうめようと云う整理案である。・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
・・・二人は市電の或る終点で降りて、一斉に街燈が消され、月光に家並を照らし出されている通りを家まで歩いた。 ふだん街の面をぎらつかせているネオンライトや装飾燈が無く、中天から月の明りを受けて水の底に沈んだような街筋を行くと、思いもかけない家と・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・しかし一九三〇年における日本のプロレタリア美術展の作品が、主題としてソヴェトにあるものとは違う、市電争議を、農民の階級闘争を捕えて来ていること、ビラ張り、集会等、労働者の日常闘争を表現していることは正しい。革命十四年目にあるソヴェト・ロシア・・・ 宮本百合子 「プロレタリア美術展を観る」
・・・日本の中にだって手近いところで市電の大首キリが迫っているし、八幡製鉄所に千人ちかい整理である。東北青森地方はひどい飢饉です。 そういうことはちょいと新聞にのるだけであとは、どっちを向いても「満蒙」「満蒙」です。われわれの考えるべきこと熱・・・ 宮本百合子 「「モダン猿蟹合戦」」
・・・市は赤字だといって市電従業員の賃銀を下げたが市会では暴力までふるって市議歳費値上げを決定した。府の扶助料とりあげの記事が何となし、その実例を読者の脳裡に思い出させるのは何故であろうか。 五 女を殴る 先日、ある・・・ 宮本百合子 「私の感想」
・・・ただ一つ覚えているのは、市電で本牧へ行く途中、トンネルをぬけてしばらく行ったあたりで、高台の中腹にきれいな紅葉に取り巻かれた住宅が点在するのをながめて、漱石が「ああ、ああいうところに住んでみたいな」と言ったことである。 三渓園の原邸では・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫