山男は、金いろの眼を皿のようにし、せなかをかがめて、にしね山のひのき林のなかを、兎をねらってあるいていました。 ところが、兎はとれないで、山鳥がとれたのです。 それは山鳥が、びっくりして飛びあがるとこへ、山男が両手・・・ 宮沢賢治 「山男の四月」
・・・ 極く明けっ放しな、こだわりのない生活をして居られる私共は、はたのしねくねした暮し振りを人一倍不快に感じるので、どうしても裏の家を快活ないい気持なと思う事が出来なかった。 何より彼より、一番大まかで、寛容でなければならない筈の主人が・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・「……もうすこうしね」「そっちの、こげやしないか」「そうかしら」 実験用テーブルの端へもたれのある布張椅子をひきよせて、いものやけるのをのぞいているのは、重吉であった。親しい友達がもって来てくれた柄の大きすぎるホームスパンの・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫