・・・一九四七年、豊原市に二十人位の文学志望者があって、新聞『新生命』を中心に樺太文学協会をつくろうということになった。第一回会合が新生命社でもたれ、「サガレン文学」を出すことにきめたが、新聞社主筆ミシャロフ少佐が、それを禁じた。理由をきくと次の・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・モーパッサンが、「脂肪の塊」と「女の一生」「水の上」の他の何で文学史の上に立っているだろう。自身のロマネスクなるものの源泉を、フランスの社交小説において、こんにち語ることのできる三島由紀夫も、おそらくは戦時下の早熟な少年期を、「抵抗」の必然・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・ 事変になってから乳児の死亡率の高くなったことや若い母の流産死産のふえたことも、やはり人々の注意をひいたことであった。 婦人は社会的に働いても永続性がないからと、女性の能力の低さの一つとしていわれるけれども、この事の一面には、働かせ・・・ 宮本百合子 「女性の現実」
・・・ 多くの男の作家志望者の中に間々あるように出世の近路をあがき求めて千鶴子が×さんや×氏に出入りした。それは明らかであったが、彼女が内心に強い芸術上の競争心を含んでいるらしいのがはる子の興味を牽きつけた。千鶴子の書いたもので読んだのは・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・下山氏の死の本質は政治屋でなかった同氏が、十六万人の従業員ともども、吉田政府の犠牲となったといえるものである。 各新聞を注意ぶかく読んでいる人は、誰しも心づいたことだろう。下山氏の死亡、その人間としての立場から同情的にあつかった記事は、・・・ 宮本百合子 「「推理小説」」
・・・ゾシチェンコは中央アジアのどこかに避難していて、羊の焙肉をたべていて、やせもしなかった体と、脂肪の沈着した脳髄とをもって、やつれはて、しかし元気は旺盛で、笑いを求めているレーニングラードに帰ってきた。そして自分の店をひろげはじめた。 ソ・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ 日本の女は一人たりとも自身たちの愚かさと、乳児死亡率の最高位であることで世界に冠絶したいとは願っていないのである。〔一九三七年八月〕 宮本百合子 「世界一もいろいろ」
・・・ 赤ん坊の死亡率はブルジョア時代のロシアでは実に高かった。工場で働く婦人たちが姙娠中養生をさせられなかったことと、ちゃんとした手当もうけられず出産しなければならなかったからです。 こういう惨めな一生をブルジョア時代のロシアの勤労婦人・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の婦人と選挙」
・・・私の五つで死んだ妹は、やはり脳に異状が起っているのを心づかず治療をまかせた医師の手落ちで死亡した。 私は、変質者、中毒患者、悪疾な病人等の断種は、実際から見て、この世の悲劇を減らす役に立つと信じる一人である。 結構なことであると思っ・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・ 母のとりなし、特に妹のロオルの支持で、バルザックの作家志望は遂にきき届けられた。然し、それには一つ妙な、父親の地方人らしい、実利的な条件がついた。二年間だけ好きにさせてやるから、その間にものになれと云うのである。 喜び勇んだバルザ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫