・・・ こうした趣向の新しさを競う結果は時にいろいろな無理を生じる。たとえば大地震で大混乱を生じている同じ町の警察のあたりでは何事もなかったらしいようなおかしい現象を生じている。 それでも事件の展開が簡単でなくて、一つの山から次の山へと移・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・殺されて行く獅子を哀れむ心を生じるだけの余裕があるであろうか。「なんの権利があって人間はこの自由な野の住民を殺戮するだろう」たとえばそんな疑いを起こすだけの離れた立場に身を置きうるであろうか。 映画に下手な天然色を出そうとする試みなども・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
骨董趣味とは主として古美術品の翫賞に関して現われる一種の不純な趣味であって、純粋な芸術的の趣味とは自ずから区別さるべきものである。古画や器物などに「時」の手が加わって一種の「味」が生じる。あるいは時代の匂というようなものが・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・殿上の名もない一女官がおぼつかない筆で書いた日記体のものでも、それが忠実な記録であるために実証的の価値があり同時にそこに文学としての価値を生じるものと思われる。 第二にはいろいろの物語小説の類である。その中に現われる人物が実際にあったと・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ このように、最も問題になる憂いの少ない論文でさえも、見る人の眼のつけ処でその価値にかなりの懸隔を生じるのである。それで、なるべく拾うべき長所の拾い落しのないためにはなるべく多数の審査員を選び、そうしてそれらの人達の合議によって及落を決・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・ 動物や植物には百千年の未来の可能性に備える準備ができていたのであるが、途中から人間という不都合な物が飛び出して来たために時々違算を生じる。人間が燈火を発明したためにこれに化かされて蛾の生命が脅かされるようになった。人間が脆弱な垣根など・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・ 動物や植物には百千年の未来の可能性に備える準備が出来ていたのであるが、途中から人間という不都合な物が飛び出して来たために時々違算を生じる。人間が燈火を発明したためにこれに化かされて蛾の生命が脅かされるようになった。人間が脆弱な垣根など・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・図書室などで喫煙を禁じるのは、喫煙家にとっては読書を禁じられると同等の効果を生じる。 先年胃をわずらった時に医者から煙草を止めた方がいいと云われた。「煙草も吸わないで生きていたってつまらないから止さない」と云ったら、「乱暴なことを云う男・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・ どうも、作者が一般的な人間の貪慾とか浅慮とかいうものを抽象して来て、欲ばるとこんな目に会うぞという教訓を与えようとする場合、たれの心にでも、つまりどんな地位、階級のものにでもめいめいの立場によって生じる主観的な実際行為の正常化を前もって封・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・全篇の読後感は、作者が非常に熱心に目を放さず葉子の矛盾の各場面に駈けつけてそれを描いているが、葉子という一箇の女と当時の社会的な事情との相互関係から生じる深刻な摩擦については、比較的常識的な見方で終っている。葉子の悲劇を解くためには、葉子が・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
出典:青空文庫