・・・春風馬堤曲とは支那の曲名を真似たるものにて、そのかく名づけしゆえんは蕪村の書簡に詳らかなり。書簡に曰く一春風馬堤曲余幼童之時春色清和の日には必ず友どちとこの堤上にのぼりて遊び候水には上下の船あり堤には往来の客ありその中には田舎娘・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・には関係ないことであるが、書簡集の中に、ある親密な若い女の人に宛てて作者が送った手紙がある。こう書かれている。「とにかく張りのあるあなたにお会いするのが気持がよい。張り……それはあなたの身上です。ピンと来るようなところが全く気持がいい。あれ・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・カーライルの例の文章でクロムウェル書簡の間に生涯を研究したもので且つ第一巻きりでは大したことがない。それだからおやめにしてランゲを入れましょう。『科学者と詩人』とは訳者の調子がわざわいしてやや甘たるいところが過重せられていると信じるが面・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・に対して、けがらわしい死刑囚の書簡集だとは云うまいけれども。 いくつかのこういう事情がたたまって、わたしは学校と疎遠になっていたのだった。それを別のひろい表現で云えば、旧い日本の上流中流の生活を支配していた常識の狭さや無智にされているま・・・ 宮本百合子 「歳月」
・・・ 我々の読んでいる本は、チェホフ全集第十巻「妻に送ったチェホフ書簡集」で、新潮社がモスクワにいる訳者に送ってよこしたものだ。モスクワにいる訳者は、今、高加索の靴を爪先にぶらつかせて、私の傍の暖房に腰かけている。 これは、小さい本だ。・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
尾崎秀実氏が獄中から書かれた書簡集がまとめられることになった。それについて、短い文章を書くようにとの依頼をうけた。 尾崎氏とその家族のために、永年心をつくしていられる友人たちは、決して少くないのである。それを思うと、私・・・ 宮本百合子 「人民のために捧げられた生涯」
・・・について文壇的な礼譲ある往復書簡体の感想を書かれたことがあった。あの文章は、二人の真中に一つのブランクをおいたままその周囲を廻っている感じであった。ブランクというのは「収穫以前」で作者森山氏は主題の更に重厚な展開のために、主人公のような社会・・・ 宮本百合子 「数言の補足」
・・・ ところどころ、それとなく拾い読みをしては私は激しい読書の飢渇を医やしたのであったが、そのような条件の中で偶然私の視野に入って来たこの小さい一冊の書翰集は二様、三様の感想をそのときの私の心に呼び起した。 その本の出版されていることを・・・ 宮本百合子 「生活の道より」
・・・の答えは、小学四年生のとき母に愛のこころをこめて送った書簡が最初のラヴ・レターと語られている。の答えが、こんにちの日本の何かを直接に反映していて人々に考えさせずにおかない。「道具という単語をしらべたるところ、仏道修業の用具、人の手足に纏い、・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・ 書簡註。イースタン・アンド・オリエンタルホテルの絵葉書。父のほかに「いが栗老人」などと自署された他の人々の寄書がある。ホテルの木立の間に父の筆で、雲を破って輝き出した満月の絵が描加えられてある。父は当時いつも「無声」・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
出典:青空文庫