・・・が、モスクワの初冬の空気をツン裂いて、「ああインターナショナル」と歌われたとき、あらゆる国語の差別は消え全く一団の燃える声となって八方に響き渡った。 第二回革命作家国際会議がモスクワでもたれず、ハリコフ市で行われたのも、五ヵ年計・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・二十世紀初頭に、ロシアの地主は搾取の面から、おくれたロシアの農場の資本主義経営、労働の合理化を考えて、農場へドイツやイギリスの耕作機械を買いこんだ。 農民たちは、脱いだ帽子を手にもって地主の前へ並び、農業機械を驚きの目で見つめた。指でさ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・やっと一九四六年の初冬から、はっきり「伸子」にひきつづく作品として「二つの庭」を書きはじめ、「二つの庭」につづくものとして「道標」一部、二部、いまは第三部のおわり三分の一ばかりのところにいる。予定では、あと三巻ばかりの仕事がある。「伸子・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・或るところは無料で、或るところは親の収入に準じた実費で七歳までの子供を保護し、食事、沐浴、初等の社会的訓練を与えてくれるのである。乳児のある母には三時間毎に授乳時間を与えられる。朝子供をつれて出勤し、退け時まで、女医と保姆の手もとにある子に・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ 詩吟というものは、ずっと昔も一部の人は好んだろうが、特に幕末から明治の初頭にかけて、当時の血気壮な青年たちが、崩れゆく過去の生活と波瀾の間に未だ形をととのえない近代日本の社会の出生を待つ時期の感懐を吐露するてだてとして流行したものであ・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・作家の社会的孤立化に対する自覚と警戒、その対策が、文学の大衆化の呼声となって現れて来たのは、本年初頭からのことなのである。 こういう事情でとりあげられているきょうの文学の大衆化の問題について、二つの問題が常にこんぐらがってもち出されて来・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・ 昭和十年は初頭から能動精神、行動主義文学の討論によって、活溌に日本文学の年次は開かれたのであるが、前年、これらの生活的・文学的動議が提出された当時から、知識階級についての理解、行為性の内容等のうちに含まれていた矛盾については、その・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 芥川の死の前後、昭和初頭前後から、日本の文学は、その流れの中に、昔ながらの一つ流れから只岐れたというばかりの相違ではない相異を質的に主張したプロレタリア文学が強い潮騒いをもって動きはじめた。 この文学運動が日本文学にもたらした消え・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・ 明治三十年代の初頭に、徳富蘆花が「自然と人生」という自然描写のスケッチ文集を出版しているのであるが、これは、こんにちよむと、日露戦争以前の日本文学の中で、自然がどう見られていたかを知ることができ、なかなか興味がある。蘆花は当時としては・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・もし人間に無条件に通じ合う愛というものがあり得るなら、こうやって初冬の晴れた大空を劈いて休戦を告げる数百千の汽笛が鳴り渡るとき、どうして人々は敗けて、而も愛するものを喪った人々の思いを察しようとしないのだろう。歓呼のうちに自分の声も合せなが・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
出典:青空文庫