・・・の或る映画館、その映画館にはいって、アメリカの写真を見て、そこから出たのは、もう午後の六時頃で、東京の街には夕霧が烟のように白く充満して、その霧の中を黒衣の人々がいそがしそうに往来し、もう既にまったく師走の巷の気分であった。東京の生活は、や・・・ 太宰治 「メリイクリスマス」
・・・ 天幕村の師走の夜に、つめたい青い月かげがさし、百万円の宝くじに当った人、一番ちがいで当らなかった人。そんなさわぎにまるで関係なく、燃料のとぼしい台所で、せめて子供のためにと、おいものきんとんを煮ていた主婦たち。さまざまの人の姿の上に一・・・ 宮本百合子 「今年こそは」
・・・、 いずれもそろってめっかちで……ひげのおじさんはおねがいの叶ってしまうそれまでは眼玉は入れてやらぬと云う……それじゃあおじさんが死ぬるまでわしらはやっぱりめっかちだ、師走の晦日におじさんは古参の順に降さ・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
出典:青空文庫