・・・高杉早苗の新婚旅行の首途に偶然行きあわせたと云って、翌朝は工場のストーブのかげで互に抱き合い泣かんばかりに感激する娘たちの青春に向って、その境遇さながら、最もおくれた感情内容を最新の経済と科学の技術で結び合わした情熱の消耗品がうりだされてい・・・ 宮本百合子 「観る人・観せられる人」
・・・若者らが、この社会の不合理につき動かされて、様々の艱難にとびこんでゆく、その純な心根にこそ、先ず可憐に堪えぬ万斛の涙があろうと思う。自分が正しいと信じた上は、屈辱に堪えて私生子を生もうとした允子の心は、子に対した場合は実に俗人的になって、「・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・それは、まさしく当時の私の心魂をつかんで燃え立たしていたトルストイの翻訳の中にある文句なのであったが、それから十数年後、ソヴェト同盟へ行って見たら、どうだろう! 直訳文のままながらも私の感情を表現するものとして役立っていたその「子供等よ!」・・・ 宮本百合子 「行方不明の処女作」
出典:青空文庫