・・・ 僕はこれからはもう天邪鬼になって、新人がどれだけ巧い作品を書いても、感心しないことにする。泥だらけの靴やちびった下駄のままで書きまくった小説でなければもう感心しない。きちんと履物をそろえて書斎の中に端坐し、さて机の上の塵を払ってから、・・・ 織田作之助 「土足のままの文学」
・・・俗に「鰯の頭も信心から」といいますが、あんまり他人の頭ばかり借りてものを考えたり、喋ったり、書いたりしておりますと、しまいには鰯の頭まで借りるようになってしまいます。いや、僕は冗談に言っているのではない。真面目に言っているのです。 他人・・・ 織田作之助 「猫と杓子について」
・・・を書かない前から、僕は会う人ごとに、新人として期待できるのはこの人だけだと言って来たが、僕がもし雑誌を編輯するとすれば、まず、太宰、坂口の両氏と僕と三人の鼎談を計画したい。大井広介氏を加えるのもいい。 文学雑誌もいろいろ出て「人間」・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・私はまだ全く自分にあいそをつかしたわけではない。私は私にとっても未知数だ。私はまだ新人だ。いや、永久に新人でありたい。永久に小説以外のことしか考えない人間でありたい。私の文学――このような文章は、私にはまだ書けないという点に、私は今むしろ生・・・ 織田作之助 「私の文学」
・・・ 義母などの信心から、天理教様に拝んでもらえと言われると、素直に拝んでもらっている。それは指の傷だったが、そのため評判の琴も弾かないでいた。 学校の植物の標本を造っている。用事に町へ行ったついでなどに、雑草をたくさん風呂敷へ入れて帰・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・それはその病気は医者や薬ではだめなこと、やはり信心をしなければとうてい助かるものではないこと、そして自分も配偶があったがとうとうその病気で死んでしまって、その後自分も同じように悪かったのであるが信心をはじめてそれでとうとう助かることができた・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・である。 女性に宗教心のないのは「玉の杯底なきが如し」である。信心の英知の目をみ開いた女性ほど尊いものはないのである。そうでないとどんなに利口で、才能があり、美しくても何か足りない。しかも一番深いものが足りない。また普通にいって品行正し・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・ 観行院様は非常に厳格で、非常に規則立った、非常に潔癖な、義務は必らず果すというような方でしたから、種善院様其他の墓参等は毫も御怠りなさること無く、また仏法を御信心でしたから、開帳などのある時は御出かけになり、柴又の帝釈あたりなどへも折・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・これは、かの新人競作、幻燈のまちの、なでしこ、はまゆう、椿、などの、ちょいと、ちょいとの手招きと変らぬ早春コント集の一篇たるべき運命の不文、知りつつも濁酒三合を得たくて、ペン百貫の杖よりも重き思い、しのびつつ、ようやく六枚、あきらかにこれ、・・・ 太宰治 「あさましきもの」
・・・なお、この事、既に貴下のお耳に這入っているかも知れませんが、英雄文学社の秋田さんのおっしゃるところに依れば、先々月の所謂新人四名の作品のうち、貴下のが一番評判がよかったので、またこの次に依頼することになっているという話です。私は商人のくせに・・・ 太宰治 「虚構の春」
出典:青空文庫