・・・という意味深長な伝統を背後にもっている提疑は、この点からこそ作家と理論家と、双方からの努力で氷解されなければならない。作家が創作の力をたかめ、強固にし、あるいは創作する可能性そのものをさえよろこびをもって自身の日々の間に発見してゆくのは、民・・・ 宮本百合子 「両輪」
・・・ 大体、近代社会の生活では、列というもののもっている心理も極めて複雑であり意味も深長だと思う。先ず、列は何かの程度でそれがふだんの状態ではないという性格をもっている。行進したり堵列したり、様々の列は、儀式の場合にもつくるものである。様式・・・ 宮本百合子 「列のこころ」
・・・ 藤原氏は、宮廷内のあらゆる隅々まで一族の権力を伸張させるために、抑々藤原鎌足の時代から、自分の娘たちを天皇の母親としようと努力して来た。皇后にするか、さもなければ中宮として、血をとおして一家の権力を扶植して来た。その必要から、自分の娘・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・秀麿は位階があるので、お父う様程忙しくはないが、幾分か儀式らしい事もしなくてはならない。新調させた礼服を著て、不精らしい顔をせずに、それを済ませた。「西洋のお正月はどんなだったえ」とお母あ様が問うと、秀麿は愛想好く笑う。「一向駄目ですね。学・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ 一人は五十前後だろう、鬼髯が徒党を組んで左右へ立ち別かれ、眼の玉が金壺の内ぐるわに楯籠り、眉が八文字に陣を取り、唇が大土堤を厚く築いた体、それに身長が櫓の真似して、筋骨が暴馬から利足を取ッているあんばい、どうしても時世に恰好の人物、自・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・そうなると、作家というものはもう慎重な態度はとっていられるものではなくなってしまう。 必ずそのときには悪魔か神かに突きあたってぶらぶらしてしまうより方法はないが、何かかけ声のようなものをかけ、一飛びに無理をそのまま捻ぢ倒してしまってふう・・・ 横光利一 「作家の生活」
出典:青空文庫