・・・殿様、地頭様、庄屋様、斬りすて御免の水呑百姓という順序で息もつけなかった昔から、今日地主、小作となってまで東北農民の実生活は、果してどの程度の経済的向上が許されたであろう。アメリカと交歓ラジオ放送が行われている今日東北の農民は床の張ってない・・・ 宮本百合子 「村からの娘」
・・・やっと生活出来る程度の収入だけを残して、あとは皆地頭、領主に取られて来た。農民の女性の生活というものは、全く物を言う家畜という有様であった。しかしこの時代の彼女達の生活が文化の上に残した各地方の労働歌――紡ぎ唄、田植唄、粉挽の時に歌う唄、茶・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ 仲平はまだ江戸にいるうちに、二十八で藩主の侍読にせられた。そして翌年藩主が帰国せられるとき、供をして帰った。 今年の正月から清武村字中野に藩の学問所が立つことになって、工事の最中である。それが落成すると、六十一になる父滄洲翁と、去・・・ 森鴎外 「安井夫人」
・・・原敬の眼中にはただ自党の利益のみがあって国家がない。ところで彼の政党は私利をのみ目ざす人間の集団であって、自党の利益とは結局党員各自の私利である。彼らはこの集団の力によって政権を握り、その権力によって各自の私利をはかろうとする。しかし政治は・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫