・・・ すると人皇何代かの後には、碧眼の胡人の女の顔にも、うつつをぬかす時がないとは云われぬ。」 わたしは自然とほほ笑みました。御主人は以前もこう云う風に、わたしたちへ御教訓なすったのです。「変らぬのは御姿ばかりではない。御心もやはり昔のまま・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
舎衛城は人口の多い都である。が、城の面積は人口の多い割に広くはない。従ってまた厠溷も多くはない。城中の人々はそのためにたいていはわざわざ城外へ出、大小便をすることに定めている。ただ波羅門や刹帝利だけは便器の中に用を足し、特・・・ 芥川竜之介 「尼提」
・・・僕はこの商標に人工の翼を手よりにした古代の希臘人を思い出した。彼は空中に舞い上った揚句、太陽の光に翼を焼かれ、とうとう海中に溺死していた。マドリッドへ、リオへ、サマルカンドへ、――僕はこう云う僕の夢を嘲笑わない訣には行かなかった。同時に又復・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・が、これらは、余り人口に膾炙しすぎて居りますから、ここにはわざと申上げません。私は、それより二三の権威ある実例によって、出来るだけ手短に、この神秘の事実の性質を御説明申したいと思います。まず Dr. Werner の与えている実例から、始め・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・父は冷えたわが子を素肌に押し当て、聞き覚えのおぼつかなき人工呼吸を必死と試みた。少しもしるしはない。見込みのあるものやら無いものやら、ただわくわくするのみである。こういううち、医者はどうして来ないかと叫ぶ。あおむけに寝かして心臓音を聞いてみ・・・ 伊藤左千夫 「奈々子」
・・・その面積は朝鮮と台湾とを除いた日本帝国の十分の一でありまして、わが北海道の半分に当り、九州の一島に当らない国であります。その人口は二百五十万でありまして、日本の二十分の一であります。実に取るに足りないような小国でありますが、しかしこの国につ・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・もっとも鏡花のお化けは本物のお化けであったが、武田さんのお化けは人工のお化けであった。だから、つまらないと言う人もあったが、しかし、現実と格闘したあげく苦しまぎれのお化けを出さねばならなかったところに、永年築き上げて来たリアリズムから脱け出・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・升屋の老人口をきる。「最早死んだかも知れない」と誰かが気の無い返事を為る。「全くあの男ほど気の毒な人はないよ」と老人は例の哀れっぽい声。 気の毒がって下さる段は難有い。然し幸か不幸か、大河という男今以て生ている、しかも頗る達者、この・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・ しかし、これらの作家によって、現在までに生産された文学は、単に量のみを問題としても、我国人口の大部分を占める巨大な農民層に比して、決して多すぎるどころではない。少ない。もちろん一見灰色で単純に見えて、その実、複雑で多様な、なか/\腹の・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・ 神おろし、神がかりの類は、これもけだし上古からあったろう。人皇十五、六代の頃に明らかに見える。が、紀記ともに其処は仮託が多いと思われる。かみなびの神より板にする杉のおもひも過ず恋のしげきに、という万葉巻九の歌によっても知られるが、後に・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
出典:青空文庫