・・・けれども、若し男性が、その時一時の気の毒さや興奮から、それを肯って、却って後に不幸を招くようなことをするよりは、静に考え、寧ろ結婚するよりは、友達として平和な交際を続けることを勧めるほかないことさえあります。 斯様に、全く自己の選択と意・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・堕落において彼女は性器の機能を問われるばかりで、人間の感情としての、特にこれ迄抑圧されていた日本の女としての解放を求める気持からの堕落の適用を問題の外におかれるならば、それは肯定して進める道であろうか。ましてや、性的欲望は、その機能が食慾と・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・ファシズムに賛成しないというだけのところに限度を置いてそこに居据っていたのでは、今日の文化を進歩的な方向に進める思潮とはなり難い。更にそれから先、ではどうするかという問題が示唆されなければならない。日本の現実に即してリアリスティックに生活と・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムの諸相」
・・・そこで氏は文化の自由こそ文化を進めるものであると主張されているのであるが、ここでも氏の判断の中で曖昧のままのこされている上述の一点は作用して、結末に於て、作家たちが「保護」に対して常に懐疑的であるのは尊敬すべきであるが「反対にそうした信念を・・・ 宮本百合子 「矛盾の一形態としての諸文化組織」
・・・この詞ははからず聞いたのであるが、実は聞くまでもない、外記が薦めるには、そう言って薦めるにきまっている。こう思うと、数馬は立ってもすわってもいられぬような気がする。自分は御先代の引立てをこうむったには違いない。しかし元服をしてからのちの自分・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ 竹が台所から出て来て、饂飩の代りを勧めると、富田が手を揮って云った。「もういけない。饂飩はもう御免だ。この家にも奥さんがいれば、僕は黙って饂飩で酒なんぞは飲まないのだが。」 これが口火になって、有妻無妻という議論が燃え上がった・・・ 森鴎外 「独身」
・・・同じ長屋に住むものが、あれでは体が続くまいと気づかって、酒を飲むことを勧めると、仲平は素直に聴き納れて、毎日一合ずつ酒を買った。そして晩になると、その一合入りの徳利を紙撚で縛って、行燈の火の上に吊るしておく。そして燈火に向って、篠崎の塾から・・・ 森鴎外 「安井夫人」
・・・写実の歩を進めるとすれば、この点も考慮せられなくてはならぬ。 が、この画家には川端氏のごとき山気がない。素直にその感じを現わそうとする芸術家的ないい素質がある。先輩の手法を模倣して年々その画風を変えるごとき不見識に陥らず、謙虚な自然の弟・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫