・・・この際笑いでもした奴は敵に内通した謀叛人としてみんなで制裁するからそう思え。九頭竜も堂脇も……今あけます、ちょっと待ってください……九頭竜も堂脇もたまらない俗物だが、政略上向かっ腹を立てて事をし損じないようにみんな誓え。一同 誓う。・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・たとえば人の噂などをする場合にも、実際はないことを、自分では全くあるとの確信をもって、見るがごとく精細に話して、時々は驚くような嘘を吐くことが母によくある。もっとも母自身は嘘を吐いているとは思わず、たしかに見たり聞いたりしたと確信しているの・・・ 有島武郎 「私の父と母」
・・・御婦人、紳士方が、社会道徳の規律に因って、相当の御制裁を御満足にお加えを願う。それは甘んじて受けます。 いずれも命を致さねばなりますまい。 それは、しかし厭いません。 が、ただここに、あらゆる罪科、一切の制裁の中に、私が最も苦痛・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・が、子女の父兄は教師も学校も許す以上はこれを制裁する術がなく、呆然として学校の為すままに任して、これが即ち文明であると思っていた。 自然女学校は高砂社をも副業とした。教師が媒酌人となるは勿論、教師自から生徒を娶る事すら不思議がられず、理・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ われ/\は日常触目する事を物々に対して、精細に見ることを努めはじめるがいい。議論よりも実際に就くべき問題である。 思索は、書物からも獲られるし、実際の人生からも獲られる。 書物からの場合は、何れかといえば冥想的であるが、実際か・・・ 小川未明 「文章を作る人々の根本用意」
・・・鉄拳制裁を受けた。なおそれが教師に知れて一週間の停学処分になった。 同級生に憎まれながらやがて四年生の冬、京都高等学校の入学試験を受けて、苦もなく合格した。憎まれていただけの自尊心の満足はあった。けれども、高等学校へはいって将来どう・・・ 織田作之助 「雨」
・・・コーヘンの『純粋意志の倫理学』と、ギヨーの『義務と制裁のない倫理学』とを比較するならば、その個性の対比は文芸作品の個性の差異の如くいちじるしい。所詮倫理学は死せる概念の積木細工ではなくして、活きた人間存在の骨組みある表現なのである。この骨組・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 善によって女性の美を求め、女性の美によって善を豊かに、生彩あらしめよ。美しい娘を思うことによって、高貴なたましいになりたいと願うこころがますます刺激されるような恋愛をせよ。 音楽会に行って、美しい令嬢のピアノを弾いた知性と魅力のあ・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・かような良書の中で、自分の問いに、深く、強く、また行きわたって精細にこたえてくれる書物があるならば、それは愛読書となり、指導書となるであろう。かような愛読書ないし指導書は一生涯中数えるほどしかないものである。 たとえば私にとっては、テオ・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・には極めて僅のことが精細に書かれているにすぎないことを感じるのである。日本人がロシア文学を読んで感じる遠さも、そこにある。これは、一つには地理的関係が原因しているのだろう。それだけ、我々が農民文学の諸問題をプロレタリアートの立場から解決する・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
出典:青空文庫