・・・わたくしが疲れてそこに睡りますと、ざあざあ吹いていた風が、だんだん人のことばにきこえ、やがてそれは、いま北上の山の方や、野原に行われていた鹿踊りの、ほんとうの精神を語りました。 そこらがまだまるっきり、丈高い草や黒い林のままだったとき、・・・ 宮沢賢治 「鹿踊りのはじまり」
・・・そのたたかいの気迫、抵抗の猛勇な精神は、その情勢の中では「過渡期の道標」のようなタッチでは表現されなかった。著者は階級的な社会発展とその文学理論の要石をつよくしっかり据えようと奮闘している。 新鮮な階級的な知性と実践的な生の脈うちとで鳴・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・ しかも宗達は、こんなに柔軟で清新な芸術の世界で、いかにも微笑まれる技術の上の手品を演じている。 画面の左手に、あっさり鳥居がおかれている。画面の重心を敏感にうけて、その鳥居が幾本かの松の幹より遙に軽くおかれているところも心にくいが・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・けれども、彼におけるその合理主義は決してショウのものではなくて、菊池寛という一個の日本の作家の身についているものであったことは、その合理性そのものが、当時の日本の思想と文学潮流とにとって或る意味では生新なものであったにかかわらず、本質の要素・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・はその描線にいかようの省略があろうとも人間云いならわした愛という言葉、よろこびという言葉、またその歎きに、どのように生新な歴史の質量がうらづけられてゆくものかということについて省略していない。大らかな虹の光りの下に立つ愛の歓喜が心情の純粋に・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・ 観光日本が眼をたのしませる何をもつか、ということも大切だろうが其を通じて観る人の精神に如何なる生新な人生の断片をもたらし得たかということこそ大切だと思う。 従来の支那は観光客のために歴代何一つしなかった 葬式されずにころがっている・・・ 宮本百合子 「観光について」
・・・日本では、一九三三年以後の社会と文学の形相があまり非理性的で殺伐であったために、その時期に青年期を経たインテリゲンチャの多くの人が、その清新生活では主として人民戦線のフランスに亡命した形があった。野間宏にしろ、加藤周一にしろ。それらの人たち・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・然しするもしないも自分の誠心一つではあるが、この真の時代と混和した心持こそ、初めてその時代を知るものに外なりません。この大切な事柄さえも女性にとっては、その自由が阻止され勝ちです。 なお最後に女の自由は、その子供のうちは比較的解放されて・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・ヨーロッパ戦争という諸条件の後に炭坑夫の息子ローレンスを生んだのであって、日本の自由主義と民主主義とを知らず、又一方に於てキリスト教の女性崇拝の伝統をも持たない社会の現実の中では、生活的にも文学的にも生新なものを生むことは不可能であった。・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・次に目につくのは小学教員、工場内で職工として働いている人の歌であり、これらの人々の歌には歌材として第三者への間接性があるにかかわらず勤労が必要としている日常の緊張から「間接を直接ならしめて、歌としては清新な、力強いものを生み出している」とい・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫