・・・おもしろいことには、また一方で、自然界に存する実際のすべての波動はやはり「虚成分」をもっていて、これが減衰を支配し、ある意味ではまた拡散をも意味する。それで、もしや、拡散も波動も概括するような一つの大きな体系があって、その両極端の場合が不減・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・これがないとあらゆる歯音が消滅して言語の成分はそれだけ貧弱になってしまうであろう。このように物を食うための器械としての歯や舌が同時に言語の器械として二重の役目をつとめているのは造化の妙用と言うか天然の経済というか考えてみると不思議なことであ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・これは一つには日本の海岸線が長くて、しかも広い緯度の範囲にわたっているためもあるが、さらにまたいろいろな方向からいろいろな温度塩分ガス成分を運搬して沿岸を環流しながら相錯雑する暖流寒流の賜物である。これらの海流はこのごとく海の幸をもたらすと・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・たであろうということも想像できるのであるが、それと同じように文化的要素の進化の道程における突然変異もまたその時代におけるいろいろな外的条件に支配されるものであって紫外線X線の放射、電流の刺激、特殊化学成分の過剰あるいは欠乏といったようなもの・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・空中電気というとわかったような顔をする人は多いがしかし雨滴の生成分裂によっていかに電気の分離蓄積が起こり、いかにして放電が起こるかは専門家にもまだよくはわからない。今年のグラスゴーの科学者の大会でシンプソンとウィルソンと二人の学者が・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・草根木皮の成分はまだ充分には研究されていないのだから、医者の知らない妙薬が数々はいっているかもしれない、またいないかもしれない。 それはとにかく、この振り出し薬の香をかぐと昔の郷里の家の長火鉢の引き出しが忽然として記憶の水準面に出現する・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・太陽の光線なればその成分もほぼ明らかであるが、人工の燈光なればその光の色や燭力の分布などを区別して考えなければならぬ。次には海水自身を区別してその塩分の多少、混濁物や浮遊生物の多少などによっての差を考えねばならない。また海面の静平であるか波・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・ただ七字、あやせば笑う声聞ゆ。 足袋の真結び、これをも俳句の材料にせんとは誰か思わん。我この句を見ること熟せり、しかもいかにしてこのことを捉え得たるかは今に怪しまざるを得ず。「歯あらはに」歯にしみ入るつめたさ想いやるべし。用・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・「そこで、澱粉と脂肪と蛋白質と、この成分の大事なことはよくおわかりになったでしょう。 こんどはどんなたべものに、この三つの成分がどんな工合に入っているか、それを云います。凡そ、食物の中で、滋養に富みそしておいしく、また見掛けも大へん・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・この社会にともに働き、ともに生きる男と女とが、その基本的な人間としての権利において互に等しいものであるというわかりきったことが、現世紀の半ばになって、しかも、こんなに深刻な破局をとおして、やっと成文にかかれたということは、むしろおどろくべき・・・ 宮本百合子 「離婚について」
出典:青空文庫