・・・ですがね、これはお宅の風呂番が説破しました。何、竹にして売る方がお銭になるから、竹の子は掘らないのだと……少く幻滅を感じましたが。」 主人は苦笑した。「しかし――修善寺で使った、あのくらいなのは、まったく見た事はない、と田京あたりだ・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・ そんな風に扱われては、支店長たちも自然自滅のほかはないと、切羽つまった抗議の手紙を殆んど連日書き送ったが、さらに効目はない。やっと返事が来たかと思うと、請求したくば、売り上げをもっと挙げてからにしろという文面だ。 そして、いきなり・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・という弱々しい未練いっぱいの訴えとなって終わってしまうほかないので、それも考えてみれば未練とは言ってもやはり夜中なにか起こったときには相手をはっと気づかせることの役には立つという切羽つまった下心もは入っているにはちがいなく、そうすることによ・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
写生文の存在は近頃ようやく世間から認められたようであるが、写生文の特色についてはまだ誰も明暸に説破したものがおらん。元来存在を認めらるると云う事はすでに認められるだけの特色を有していると云う意味に過ぎんのだから、存在を認められる以上は・・・ 夏目漱石 「写生文」
・・・そして彼らを説破した方法を、スタインベックは無邪気に語っている。彼は「ロシアの問題」の題材とテーマとを、すっかり逆におきかえて、もしソヴェトにおいてアメリカに対するこういうことがあるとしたら、君たちはどう思うか、と反問すると、大抵、それが真・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・国家が芸術なんかを保護しなかったのはかえってよかった、現在保護と監視は同義語である、と説破しているところは、やはり自然主義作家正宗の進歩性がそのおもかげをのこしていると感じられて愉快である。 けれども、白鳥は、荷風の人となりと「ひかげの・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
出典:青空文庫