・・・ところが、文学の領野にも、戦禍はまざまざとしていた。当時はプロレタリア作家として歴史的な存在意義をもつ小林多喜二を否定的に評価する傾向とたたかうことが『新日本文学』の一つの主な任務であった。また一般的にはそのころの『近代文学』が主張していた・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・日本語のできる郁達夫はビルマの辺鄙な村にかくれて戦禍をさけていた。遂にそこへも日本軍が侵入して来た。或る日、往来で土地の住民が虐殺されかかっているのを見て、郁達夫の唇から思わず日本語がほとばしった。土地の住民の命はそのために救われ、郁達夫は・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・しかしヨーロッパや東洋の荒廃した国々の誰がこの上にも戦禍を重ねたいと思っているでしょう。真実に求められているのは平和です。平和を可能にする世界の民主化の確立です。このことは、こんどの大戦後の世界に、民主主義婦人同盟ができて千百万人の婦人を組・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・私としては実に多くのことを学んだこの公判の期間をとおして、一九四三年一月スターリングラードにおいて死守の命令をうけたナチス軍が消息を絶ったというニュース、反ファシスト軍がイタリアのシチリア島に上陸して戦果をおさめ、ムッソリーニが辞職したニュ・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・女子供、年寄りから病人、赤ん坊まで、戦禍にまきこまれずにはすまない。これは日本の状態を見ても明瞭である。地震で家を破壊され、堤防決壊で人の流されることになれている日本の人民生活の自然に対して未開な抵抗力しかもっていない習慣で「復興」というこ・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・同じ『改造』に吉川英治氏の「戦禍の北支雑感」がある。これを読むと吉川氏のようにある意味ではロマンティックな高揚で軍事的行動を想像の上で描き出していた人でも、悲惨の現実、複雑な国際関係の実際を目撃すると、締って来るところもあることがうかがえる・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ 法学博士横田喜三郎氏が、『時論』五月号の評論に詳細に述べておられるとおり、第二次大戦で直接国土に戦禍をうけなかった国はアメリカだけである。アメリカは第一次大戦においても同じ幸運を保った。第二次大戦では軍人だけの損失が一五〇〇万人とされ・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・東大独文科選科二年生。学校にも殆ど出席せずふらふらした生活を送る。井上正夫、桝本清氏等と謀り野外劇を創む。 一九一四年。第三次『新思潮』を起す。「女親」を同誌に発表。二高で高等学校の検定試験を受け及第。大学の本科生となる。学資欠乏し、郷・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・そしてヨーロッパが戦禍に陥った機会に乗じ、日本は更に手を伸ばして真珠湾、南洋諸島、東亜諸国に侵略を始めた。 人が重い病気に罹った時、それを癒すために協力するのが人間らしい仕業であろう。或は、その病気を一層重くさせ一層余病を併発させ、命を・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ 老年の先生を信州の山の中に追いやった戦禍のことを思うと、まことに心ふさがる思いがするが、しかしそれが機縁になってこの歌集が生まれたことを思えば、悪いことばかりではなかったという気もする。田舎住なま薪焚きてむせべども躑躅山吹花咲・・・ 和辻哲郎 「歌集『涌井』を読む」
出典:青空文庫