・・・あるいは、文学をとおして大衆との結合というふうに相対の形態を考える。しかし、作家たちが社会機構の中で保守封建なものとたたかいながら、営利資本の圧力に抗しつつ自身とその芸術を新しくし、なおさらに新しい作家と文学とをもりたててゆこうと欲するとき・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・なるほど、現在有名になっている女優一人一人について見れば、容貌にしろ髪の色、声にしろ感情表現の身振りにしろ特長がなくはないのだが、男との相対において現われて来ると、性格的なものをはっきり生かそうというスター・システムの焦慮にもかかわらず、感・・・ 宮本百合子 「映画の恋愛」
・・・女性総体としての社会的経験が急速に多様になり、複雑になって来ているわけなのだが、そのようにして社会の新しい水脈に立った娘さんたちが、どのように自分の経験を感じながら生きているのだろう。自分一個のさまざまの経験や気持や希望を、自分のものである・・・ 宮本百合子 「女の自分」
・・・ 女の人が、総体経済家で、きれいずきで、家政的に育て上げられているのは、一寸傍から見れば、共に生活する男の人の幸福のようだが、右を向いても左を向いても、母、妻、姉妹皆同一の型でちんまり纏っているとうんざりと見え、京都の男は遊ぶ。 遊・・・ 宮本百合子 「京都人の生活」
・・・ 一九四七年以後は、総体として日本の民主革命の目標の不明瞭さはそのままで、一方から民主主義文学は即ち労働者・勤労者の経済・政治闘争に利用されるものでなければならないという一面に傾いた見解がつよくおこった。ある種の文化・文学活動家たちがこ・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・「短く云っちまえば、総体として、この小説はためになるもんだネ」 ザイツェフは云い出した。「文句も大衆にわかりいい。だが、思想はチラバラだ。俺は、あの小説からまとまったものは何も感じなかった。何だか、こう散らばって、ブン撒かれてい・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
一 こんにち、私たちの生活感情の底をゆすって、一つのつよい要求が動いている。それは、日本の現代文学は総体として、その精神と方法とにおいて、きわめて深いところから鋤きかえされる必要があるという疼痛の・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・条理ある社会関係の総体の見とおしを許さず、きれぎれの認識で混乱させた力こそ、ファシズムの本質ではなかったろうか。 記録文学の流行は、出版界の不安定性とまじり合って、各出版社を記録文学のヒットさがしに熱中させた。花山信勝の「平和の発見」は・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・ ついこの間の晩、縁側のところで、私は妙な一匹の這う虫を見つけた、一寸五分ばかりの長さで、細い節だらけの体で、総体茶色だ。尻尾の部分になる最後の一節だけ、艷のある甲羅のようなもので覆われている。一寸見ると、そして、這ってゆく方角を念頭に・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・今日、勤労する人間の生活はまだどんなに部分的にしか文学の現実としてとらえられ得ない事情に置かれているかという感慨、並に、それであるからこそ作家は一層まめに、一層着実に、やがてこの総体の為の各部分を現在においてとりあげて行かなければならないと・・・ 宮本百合子 「鼓舞さるべき仕事」
出典:青空文庫