・・・その代り講義の方はこの間まで毎日やって来ましたから、おそらく上手だろうと思うのですけれどもあいにく御頼みが演説でありますから定めて拙いだろうと存じます。 実はせんだって大村さんがわざわざおいでになって何か演説を一つと云う御注文でありまし・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・『歎異抄』に「念仏はまことに浄土に生るゝ種にてやはんべるらん、また地獄に堕つべき業にてやはんべるらん、総じてもて存知せざるなり」といえる尊き信念の面影をも窺うを得て、無限の新生命に接することができる。・・・ 西田幾多郎 「我が子の死」
・・・あなたが次第に名高くおなりになるのを、わたくしは蔭ながら胸に動悸をさせて、正直に心から嬉しく存じて傍看いたしていました。それにひっきりなしに評判の作をお出しになるものですから、わたくしが断えずあなたの事を思わせられるのも、余儀ないわけでござ・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・何だかわたくしも存じません。厭らしい奴が大勢でございます。主人。乞食かい。家来。如何でしょうか。主人。そんなら庭から往来へ出る処の戸を閉めてしまって、お前はもう寝るが好い。己には構わないでも好いから。家来。いえ、そのお庭の戸・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・よし辛うじてこの目的を達したところで最早その上に面白く書くという余地はないはずであるが、楽天の紀行は毎日必ず面白い処が一、二個処は存じて居る。これが始めに徒歩旅行を見た時に余が驚嘆して措かなかった所以である。つまり徒歩旅行は必要と面白味とを・・・ 正岡子規 「徒歩旅行を読む」
・・・せがれの命をお助けくださいましてまことにありがとう存じます。あなた様はそのために、ご病気にさえおなりになったとの事でございましたが、もうおよろしゅうございますか」 親子のひばりは、たくさんおじぎをしてまた申しました。 「私どもは毎日・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・まことにお互い、ちょっと沙漠のへりの泉で、お眼にかかって、ただ一時を、一緒に過ごしただけではございますが、これもかりそめのことではないと存じます。ほんの通りかかりの二人の旅人とは見えますが、実はお互がどんなものかもよくわからないのでございま・・・ 宮沢賢治 「雁の童子」
・・・「何も仰っしゃったんではございませんがちょっとしたらご存知かと思いましたので。」「狐なんぞに神が物を教わるとは一体何たることだ。えい。」 樺の木はもうすっかり恐くなってぷりぷりぷりぷりゆれました。土神は歯をきしきし噛みながら高く・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・「ただ今のご文は、梟鵄守護章というて、誰も存知の有り難いお経の中の一とこじゃ。ただ今から、暫時の間、そのご文の講釈を致す。みなの衆、ようく心を留めて聞かしゃれ。折角鳥に生れて来ても、ただ腹が空いた、取って食う、睡くなった、巣に入るではな・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・筆者の矢田喜美子という方は、どなたか存じませんけれども、この記事は、何となく私の心にのこりました。ヨーロッパから最近帰って来たある日本人が、今日の日本をみて、みんなの生活が無計画で、食えないといいながらたかいタバコをプカプカふかしている、政・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
出典:青空文庫