・・・ けれども、電車の中は案外すいていて、黄い軍服をつけた大尉らしい軍人が一人、片隅に小さくなって兵卒が二人、折革包を膝にして請負師風の男が一人、掛取りらしい商人が三人、女学生が二人、それに新宿か四ツ谷の婆芸者らしい女が一人乗っているばかり・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・依て今我輩の腹案女子教育説の大意を左に記し、之を新女大学と題して地下に記者に質さんとす。記者先生に於ても二百年来の変遷を見て或は首肯せらるゝことある可し。 福沢諭吉 「女大学評論」
一人の教育と一国の教育とは自ずから区別なかるべからず。一人の教育とは、親たる者が我が子を教うることなり。一国の教育とは、有志有力にして世の中の事を心配する人物が、世間一般の有様を察して教育の大意方向を定め、以て普く後進の少年を導くこと・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・る人いわく、慶応義塾の学則を一見し、その学風を伝聞しても、初学の輩はもっぱら物理学を教うるとのこと、我が輩のもっとも賛誉するところなれども、学生の年ようやく長じて、その上級に達する者へは、哲学・法学の大意、または政治・経済の書をも研究せしむ・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・女子に経済法律とは甚だ異なるが如くなれども、其思想の皆無なるこそ女子社会の無力なる原因中の一大原因なれば、何は扨置き普通の学識を得たる上は同時に経済法律の大意を知らしむること最も必要なる可し。之を形容すれば文明女子の懐剣と言うも可なり。・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・怱々筆をとって西洋書中の大意を記し、他日諸君の考案にのこすのみ。明治三年庚午一一月二七夜、中津留主居町の旧宅敗窓の下に記す福沢諭吉 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・ 夫婦親愛恭敬の徳は、天下万世百徳の大本にして更に争うべからざるの次第は、前既にその大意を記して、読者においても必ず異議はなかるべし。そもそも我輩がここに敬の字を用いたるは偶然にあらず。男女肉体を以て相接するものなれば、仮令えいかなる夫・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・自分らの頭の上は仮の桟敷で、そこには大尉以下の人が二、三十人、いつも大声で戦の話か何かして居る。その桟敷というのは固より低いもので、下に居る自分らがようよう坐れる位のものだから、呼吸器の病に罹って居る自分は非常に陰気に窮屈に感ぜられる。血を・・・ 正岡子規 「病」
・・・ まっ黒くなめらかな烏の大尉、若い艦隊長もしゃんと立ったままうごきません。 からすの大監督はなおさらうごきもゆらぎもいたしません。からすの大監督は、もうずいぶんの年老りです。眼が灰いろになってしまっていますし、啼くとまるで悪い人形の・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・「あの本――少年倶楽部……僕よんだことあるよ、島村大尉ってとても勇ましいんだね」「ハハハハそれは違うよ、それは別の人が拵えたんだよ多勢で……ハハハハハハ」 その人が一太の顔を気持良く輝く日向みたいな眼で真正面から見て笑うので、一・・・ 宮本百合子 「一太と母」
出典:青空文庫