・・・地にかむづまります独楽たのしみは戎夷よろこぶ世の中に皇国忘れぬ人を見るときたのしみは鈴屋大人の後に生れその御諭をうくる思ふ時赤心報国国汚す奴あらばと太刀抜て仇にもあらぬ壁に物いふ・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・ それから復鶩の飼うてある処を通って左千夫の家に立ちよったが主人はまだ帰らぬという事であった。いっそこのまま帰ろうかとも思うて門の内で三人相談して居たが、妻君の勧めもあるから、遂に坐敷に上りこんで待つ事にした。やがて車の音がして主人は息・・・ 正岡子規 「車上の春光」
・・・ イギリス海岸には、青白い凝灰質の泥岩が、川に沿ってずいぶん広く露出し、その南のはじに立ちますと、北のはずれに居る人は、小指の先よりもっと小さく見えました。 殊にその泥岩層は、川の水の増すたんび、奇麗に洗われるものですから、何とも云・・・ 宮沢賢治 「イギリス海岸」
・・・ダー、ダー、ダースコ、ダーダ、青い 仮面この こけおどし、太刀を 浴びては いっぷかぷ、夜風の 底の 蜘蛛おどり、胃袋「達二。居るが。達二。」達二のお母さんが家の中で呼びました。「あん、居る。」達二は走って行きま・・・ 宮沢賢治 「種山ヶ原」
・・・ また、或る婦人雑誌はその背後にある団体独特の合理主義に立ち、そして『婦人画報』は、或る趣味と近代機智の閃きを添えて、いずれも、これらのトピックを語りふるして来たものである。 ところが、今日、これらの題目は、この雑誌の上で、全く堂々・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・伊達政宗がわざと大酔して空寝入りをし、自分の大刀に錆の出ていることを盗見させた逸話は有名である。伊達模様という一つの流行語が作られ、今日までそれは日本の生きた言葉としてのこっている。その源泉は、やはりこの伊達の智慧であった。浪費と軽薄の表徴・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・というものを開いたときには、太刀ふじという七つか八つの女の子に前座をつとめさせたこともあった様子である。 明治十三年に神田の区会に婦人傍聴者が現れたということが神崎清氏の婦人年鑑にあって、それから明治二十三年集会結社法で婦人の政談傍聴禁・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・』 アウシュコルンは驚惶の体で、コーンヤックの小さな杯をぐっとのみ干して立ちあがった。長座した後の第一歩はいつもながら格別に難渋なので、今朝よりも一きわ悪しざまに前にかがみ、『わしはここにいるよ、わしはここにいるよ。』と繰り返し・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・境内の杉の木立ちに限られて、鈍い青色をしている空の下、円形の石の井筒の上に笠のように垂れかかっている葉桜の上の方に、二羽の鷹が輪をかいて飛んでいたのである。人々が不思議がって見ているうちに、二羽が尾と嘴と触れるようにあとさきに続いて、さっと・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ 夜具葛籠の前に置いてあった脇差を、手探りに取ろうとする所へ、もう二の太刀を打ち卸して来る。無意識に右の手を挙げて受ける。手首がばったり切り落された。起ち上がって、左の手でむなぐらに掴み着いた。 相手は存外卑怯な奴であった。むなぐら・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫