・・・「さあ、発つぞ。ギイギイギイフウ。ギイギイフウ。」 実に彗星は空のくじらです。弱い星はあちこち逃げまわりました。もう大分来たのです。二人のお宮もはるかに遠く遠くなってしまい今は小さな青白い点にしか見えません。 チュンセ童子が申し・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・ その心持を誠意のこもった現実の力として表現しようとするとき私たちは、一つの救国運動として故国に対する人民の愛と必要に立つ統一的動きを肯定する以外に、どんな道を見出せるだろうか。雄々しいフランスの婦人たちは、フランスが歴史の波瀾を凌いで・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・一年一年が経つごとに社会と政治の現実は、人間性と文化の擁護のためにはファシズムと闘わなければならないという実際の政治的必要を文化欲求の基礎として実感させてきました。そしてそれは行動されはじめました。文学における政治の優位性の問題は、現在では・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ 三日四日経つうちに彼は家の中だけ歩くようになった。 従って千代を見る機会も増した。 彼は風呂場などに行ったかえり、よく妻と顔を見合わせては、むずかしい顔をして頭をふるようになった。 それに対して、さほ子は瞹昧極る微笑を洩し・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・ 考えて見ると、それから一年位経つか経たないうちに、外国語学校教授で、英国官憲の圧迫に堪えかねて自殺したという、印度人のアタール氏を始めて見たのがその周旋屋の、妙に落付かない応接所であった。 今顧ると、丁度その夏は、貸家払底の頂上で・・・ 宮本百合子 「思い出すこと」
・・・本当に発つ日がわからないから心配です。南のことは誰も不馴れで、何となく手がない気がして、決心ばかりするしかないのだけれど、こちらでこれだけのことがわかって包みが間に合えば、いくらか心ゆかせになるというものです。梅干布などというものもあって、・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 一四九・三パーセント 固定託児所 一〇〇八 一五九七 五八・〇パーセント 児童健康保護医員 六三・一パーセント この頃盛んに建つСССРの新住宅は多くの場合その中に・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ そして、一緒に建つ姙婦健康相談所で、プロレタリア婦人の避姙の相談にものり、産院で子を生ませてもらっても、とうてい育てられないほど困った時には、附属の乳児院の方で六ヵ月乃至一年間預り、または院外保育児として、里子に出し、その費用も同院で・・・ 宮本百合子 「「市の無料産院」と「身の上相談」」
・・・昔、仏像の製作者が、先ず斎戒沐浴して鑿を執った、そのことの裡に潜む力は、水をかぶり、俗界と絶つ緊張の中に存するのではなく、左様にして後、心を満たし輝かす限りないポイズの裡にあるのではないだろうか。〔一九二一年十二月〕・・・ 宮本百合子 「透き徹る秋」
・・・今年のうちにもう二百戸ばかり建つことになってはいますが……」 階下は明るいゆったりした二室に台所。二階は小ぶりな部屋が二つ。こちらにはヨーロッパ風の寝台や椅子。書もの卓子などがあるが、下は、韃靼風によく磨いた床に色彩の濃い敷物と沢山のク・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
出典:青空文庫