・・・ますます騒がしく泣き立てるだろう。ハッハッハッハハ。 赤ん坊がまるっきり大きくならないとしても、お前は年をとるんだよ。ヘッヘッ。 お前は背中に止った虱が取りたいだろう。そいつを、赤ん坊を引き裂いたように、最後の思い出として捻りつぶし・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・石を建てるのはいやだがやむなくば沢庵石のようなごろごろした白い石を三つか四つかころがして置くばかりにしてもらおう。もしそれも出来なければ円形か四角か六角かにきっぱり切った石を建ててもらいたい。彼自然石という薄ッぺらな石に字の沢山彫ってあるの・・・ 正岡子規 「墓」
・・・何でも人夫どもに水を飲ませるのが悪いというので、水瓶の処へ番兵を立てる事になった。自分は足がガクガクするように感ぜられて、室に帰って寐ると、やがて足は氷の如く冷えてしもうた。これは先刻風呂に這入った反動が来たのであるけれど、時機が時機である・・・ 正岡子規 「病」
・・・立てるもの合唱「いくさで死ぬならあきらめもするがいまごろ餓えて死にたくはないああただひときれこの世のなごりにバナナかなにかを 食いたいな。」(共に倒(銅鑼バナナン大将登場。バナナのエボ・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・てぐすも飼えないところにどうして工場なんか建てるんだ。飼えるともさ。現におれをはじめたくさんのものが、それでくらしを立てているんだ。」 ブドリはかすれた声で、やっと、「そうですか。」と言いました。「それにこの森は、すっかりおれが・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・取れもしないところにどうして工場なんか建てるんだ。取れるともさ。現におれはじめ沢山のものがそれでくらしを立てているんじゃないか。」 ネネムはかすれた声でやっと「そうですか。おじさん。」と云いました。「それにこの森はすっかりおれの・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・一坪でも、そこから米を産出する稲田の真中に、大きい面積をつぶして住居を立てるほど地主たちは愚かでないという証拠である。彼等は多く都会に家をもっているのだろう。小作としてどうしてもそこで働かせておかなければこまる農民の住居は最小限において。家・・・ 宮本百合子 「青田は果なし」
・・・左官屋といっても、ドイツではただ壁をぬるばかりが仕事ではなくて、煉瓦を積んで家を建てる仕事や、その家々の装飾の浮彫石膏細工をつくるという風な美術的技量のいることも、やはり左官の職分にこめていたものらしく思われる。 カールのそのようなはっ・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・それで江井も大いに頭をしぼり、向島の西村の土地のがら空きのところへアパートを建てることになり、それで江井の安定の手段とすることになりました。私はやっと肩の重荷をおろしました。何しろ、こういう話、スエ子の話、皆、百合子様、お姉様なのです。この・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・何処かで人間らしいあったかい人づきあいを欠いて、やっとこさと金を溜めて、どうやら家を建てるより子供の教育だ、立派な子孫を残すために、小さい碌でもない財産を置くより子供の体にかけようと熱心に貯金していたら、それがどうでしょう、このごろは金の値・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
出典:青空文庫