・・・ この意味においては、書物とは見ざるを見、味わわざるを味わい、研めざるを知得するためにあるものである。それどころではない、思わざるを思うためにさえもあるものである。すなわち、自己独りではとうてい想望できなかったような高い、美しいイデーや・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・夫の教訓あらば其命に背く可らず、疑わしきことは夫に問うて其下知に従う可し、夫若し怒るときは恐れて之に従い、諍うて其心に逆う可らずと言う。夫の智徳円満にして教訓することならば固より之に従い、疑わしき事も質問す可きなれども、是等は元来人物の如何・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・平民の知徳を開き、これをして公に民事を議するの権を得せしむる者も、この子女ならん。自から労して自から食らい、一身一家の独立をはかり、ついに一国を独立せしむる者も、この子女ならん。広く外国と交を結び、約束に信を失わず、貿易に利を失わしめざる者・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・自今以後とても、教育家がこの辺に心付かずして、ただ教育法の高尚なるを求め、国民の智徳の高さと文明の学理の高さと、ほぼ相当らしむべきの要を知らずして、今のままの方向に進みたらんには、国中ますます教師を生ずるのみにして、実業につく者なく、はじめ・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・ゆえに今の儒者も道徳の一味に安んずることなくして、勉て智学に志し、智徳その平均を得て、はじめて四書五経をも講論せしむべきなり。 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・人の智徳は教育によりておおいに発達すといえども、ただその発達を助くるのみにして、その智徳の根本を資るところは、祖先遺伝の能力と、その生育の家風と、その社会の公議輿論とにあり。蝦夷人の子を養うて何ほどに教育するも、その子一代にては、とても第一・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・ひろく万国の書を読て世界の事状に通じ、世界の公法をもって世界の公事を談じ、内には智徳を脩て人々の独立自由をたくましゅうし、外には公法を守て一国の独立をかがやかし、はじめて真の大日本国ならずや。これすなわち我が輩の着眼、皇漢洋三学の得失を問わ・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
今日の文明は智恵の文明にして、智恵あらざれば何事もなすべからず、智恵あれば何事をもなすべし。然るに世に智徳の二字を熟語となし、智恵といえば徳もまた、これに従うものの如く心得、今日、西洋の文明は智徳の両者より成立つものなれば・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
出典:青空文庫