・・・僕はそれから魔法の巻煙草とほんものの巻煙草とを、ちゃんぽんに吸った。そうしたらじきに午になった。 午飯を食ったら、更に気が重くなった。こう云う時に誰か来ればいいと思うが、生憎誰も来ない。そうかと云ってこっちから出向くのも厄介である。そこ・・・ 芥川竜之介 「田端日記」
・・・ 処を沖へ出て一つ暴風雨と来るか、がちゃめちゃの真暗やみで、浪だか滝だか分らねえ、真水と塩水をちゃんぽんにがぶりと遣っちゃ、あみの塩からをぺろぺろとお茶の子で、鼻唄を唄うんだい、誰が沖へ出てベソなんか。」 と肩を怒らして大手を振った・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・絵もなかなかおもしろいが絵とちゃんぽんに印刷されたテキストが、われわれが読んでさえ非常に口調のいいと思われる韻文になっていて、おそらく、ロシアの子供なら、ひとりでに歌わないではいられなくなるであろうと思われるものである。簡単に内容を紹介する・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・英語がまだ初歩なのに仏語をちゃんぽんに教わっては不利益だという理由であったが、実際はその教師となるべき青年が近隣で不良の二字をかぶらせた青年であるがためだということが後にわかって来た。思うにかれは当時の新思想の持ち主であったのである。それか・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
ねばねばした水気の多い風と、横ざまに降る居ぎたない雨がちゃんぽんに、荒れ廻って居る。 はてからはてまで、灰色な雲の閉じた空の下で、散りかかったダリアだの色のさめた紫陽花が、ざわざわ、ざわざわとゆすれて居るのを見て居ると・・・ 宮本百合子 「雨の日」
・・・算術の日、国語の日とちゃんぽんにある。自分には、算術が一向うまくない。前の方に坐っていて、黒板の前に呼び出されては大変だと思って、いつも後の窓際に小さくなって控えているけれども、国語の時となると、気ものうのうとし、楽しく、先生と睨み合うよう・・・ 宮本百合子 「入学試験前後」
出典:青空文庫