・・・を作家的特質として認めているこの婦人作家の今後の動きは注視される。 佐多稲子は「私の東京地図」をもって新しい出発に踏みだした。この連作で作者は戦災によってすっかり面がわりした東京の下街のあすこここを回想的に描き出しながら、そこを背景とし・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・と国際的な注視をあびているとき、現内閣はまっさきに婦人少年局を廃止しようとした。これはさわがれて、目的を果さなかった。大学法案というものを出して、これもごうごうの非難をあびている。大学法案は日本の学問が自主的に発展してゆく道を失わせるために・・・ 宮本百合子 「平和をわれらに」
・・・ エルリングに出逢って、話をし掛けた事は度々あったが、いつも何か邪魔が出来て会話を中止しなくてはならなかった。 ある晩波の荒れている海の上に、ちぎれちぎれの雲が横わっていて、その背後に日が沈み掛かっていた。如何にも壮大な、ベエトホオ・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・シナの玉についての講義の時に、先生は玉の味が単に色や形にはなくして触覚にあることを説こうとして、適当な言葉が見つからないかのように、ただ無言で右手をあげて、人さし指と中指とを親指に擦りつけて見せた。その時あのギョロリとした眼が一種の潤いを帯・・・ 和辻哲郎 「岡倉先生の思い出」
出典:青空文庫