・・・ あの実方の中将は、この神の前を通られる時、下馬も拝もされなかったばかりに、とうとう蹴殺されておしまいなすった。こう云う人間に近い神は、五塵を離れていぬのじゃから、何を仕出かすか油断はならぬ。このためしでもわかる通り、一体神と云うものは、人・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・「あやまった。いや、しかし、千五百石の女、昔ものがたり以上に、あわれにはかない。そうして清らかだ。」「中将姫のようでしたって、白羽二重の上へ辷ると、あの方、白い指が消えました。露が光るように、針の尖を伝って、薄い胸から紅い糸が揺れて・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・にはそれ以上、大将や中将や男爵等が主として書かれている。独歩はブルジョア的であるが、蘆花は封建的色彩がより色濃い。蘆花自身人道主義者で、クリスチャンだったが、東郷大将や乃木大将を崇拝していた。「不如帰」には、日清戦争が背景となっている。・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・自分はかつて、例の液の熱対流による柱状渦の一例として、放射形の縞模様を作ることができた。また床上に流した石油に点火するときその炎の前面が花形に進行する現象からもまた、放射形柱状渦の存在を推定したことがあった。それの類推的想像と、もう一つは完・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・ 中学時代に相撲が好きで得意であったような友人の大部分は卒業後陸軍へはいったが、それがほとんど残らず日露戦役で戦死してしまって生き残った一人だけが今では中将になっている。海軍へはいった一人は戦死しなかった代わりに酒をのんでけんかをして短・・・ 寺田寅彦 「相撲」
・・・と降参人ながらいろいろな条件を提出する、仁恵なる監督官は余が衷情を憐んで「クラパム・コンモン」の傍人跡あまり繁からざる大道の横手馬乗場へと余を拉し去る、しかして後「さあここで乗って見たまえ」という、いよいよ降参人の降参人たる本領を発揮せざる・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・その虚実、要不要の論はしばらく擱き、我が日本国人が外国交際を重んじてこれを等閑に附せず、我が力のあらん限りを尽して、以て自国の体面を張らんとするの精神は誠に明白にして、その愛国の衷情、実際の事跡に現われたるものというべし。 然るに、我輩・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・元海軍中将であるこの筆者は、その達筆な戦記のなかにきわめて効果的に自然に「しからばこのときどうすることがよかったか。結果論のようではあるが私は戦闘機なしでも出すべきであったと思う」と、さながら戦況の不利を目の前に見ているように「何という無念・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
夫人の虚栄心から出入りの軍需工業会社員から金銭を収受し、ついに夫の地位と名誉にまで累を及ぼした植村中将の事件についていって見たい。 こういう事件はやはり昨今の一部にかたよった景気につれて起った事でしょう、ま・・・ 宮本百合子 「果して女の虚栄心が全部の原因か?」
・・・ーの分析 リアリズム 古き十八世紀風なもの 社会的場面の描写 特にサロン スタンダールの帝政時代観 p.28 リュシアンの入った第三師団管轄区の査閲を拝命した伯爵N中将について。p.29 N伯爵の・・・ 宮本百合子 「「緑の騎士」ノート」
出典:青空文庫