・・・高等小学校の理科の時間にTK先生という先生が坩堝の底に入れた塩酸カリの粉に赤燐をちょっぴり振りかけたのを鞭の先でちょっとつつくとぱっと発火するという実験をやって見せてくれたことを思い出す。そのとき先生自身がひどく吃驚した顔を今でもはっきり想・・・ 寺田寅彦 「追憶の冬夜」
・・・折詰の飯に添えた副食物が、色々ごたごたと色取りを取り合せ、動物質植物質、脂肪蛋白澱粉、甘酸辛鹹、という風にプログラム的に編成されているが、どれもこれもちょっぴりで、しかもどれを食ってもまずくて、からだのたしになりそうなものは一つもない。・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・その何だか違う感じが小さい子の感情を限りなく魅する。ちょっぴりこわいようでもある。珍しいものはいつだって少しはこわいところもある。――それを子供はよく知っている。その感じを更に強め享楽するために、私は机だの小屏風だのを持ち出して、薄暗い隅に・・・ 宮本百合子 「雨と子供」
・・・「いいえね、 ほんとうを云えばほんのちょっぴり御機嫌が悪かったの。 でもね今はすっかりなおった、 貴方が来て呉れたから。」「貴方はお天気屋だもの、 そいで又我ままなんだもの、 あの女だって思いがけない処に気を・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・斯うささやく心のどこかにほんのちょっぴり今までにない不安さがある。 私はあの人を女優とは云わせたくなく、又自分からも云いたくない。 女優――斯う云う言葉の中に何とはなしに私にはいやにひびく音がまじって居る。 女役者と云う方が私は・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
出典:青空文庫