・・・ 私は物の運動というものの理想を鵜飼で初めて見たと思ったが、綱を切る切らぬの判断は、鵜を使う漁夫の手にあるのもまた知った。私は世界の運動を鵜飼と同様だとは思わないが、急流を下り競いながら、獲物を捕る動作を赤赤と照す篝火の円光を眼にすると・・・ 横光利一 「鵜飼」
・・・卓の上には分析に使う硝子瓶がある。六分儀がある。古い顕微鏡がある。自然学の趣味もあるという事が分かる。家具は、部屋の隅に煖炉が一つ据えてあって、その側に寝台があるばかりである。「心持の好さそうな住まいだね。」「ええ。」「冬になっ・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・もしくはこの絵の具を写実に使う習練の不足によるのであろう。写実の歩を進めるとすれば、この点も考慮せられなくてはならぬ。 が、この画家には川端氏のごとき山気がない。素直にその感じを現わそうとする芸術家的ないい素質がある。先輩の手法を模倣し・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫