・・・私達の使っている燃料とその燃料が使えるようなかまど、いもや粉の代用食、これ等総ては近代的でしょうか。私達のおばあさん、ひいおばあさん達がまぶたをただらせてくすぶらせたその台所の生活が一九四七年の日本の首府東京の家々の台所となっています。婦人・・・ 宮本百合子 「今度の選挙と婦人」
・・・文壇の外に出るということが言われているのであるが、抽象的な文壇はその人々の経済生活を支えるための出版活動をしていたというのではないから、執筆は従来も営利的な出版物の上にされていた訳である。作品の市場としての今日の新聞雑誌、単行本出版のことは・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・この天皇制の尾骨のゆえに、一九四〇年ごろのファシズムに抗する人民戦線は、日本で理性を支えるいかなる支柱ともなり得なかった。『人間』十一月号に、獅子文六、辰野隆、福田恆存の「笑いと喜劇と現代風俗と」という座談会がある。日本の人民が笑いを知・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・それは男子は神様に仕えるのが第一で、主になって働くのは婦人ですから、親は働きの助けに女の子を欲しがるのであります。 やがて子供が相当の年頃になると、男の子は神様の祭りや祈祷の言葉を教えられたり、女の子は機織り、刺繍などを教えられます。何・・・ 宮本百合子 「親しく見聞したアイヌの生活」
・・・ 更に団結した力とハッキリした指導にしたがって、資本主義の社会施設を真にプロレタリアートの利益のために使えるものとしてゆくこと。 われわれの毎日の生活の中には闘うべきことが多くある。プロレタリアの母のための産院の問題などもこの一つで・・・ 宮本百合子 「「市の無料産院」と「身の上相談」」
・・・ 使っていい金が世間にあっただろうし、そういう金が流れているだけに物は悪くて高くなっているのだから、茶碗一つを買うにしろどうせもとの考えかたでやすくて使えるものがなくなっているのならば、と人々の目は一寸目先の変った品物へひかれるのである・・・ 宮本百合子 「生活のなかにある美について」
・・・一部の人々が今日濫費しているのは、金の力を信じないからこそである。使えるうちに使っているからである。そして、ますます悪循環と偏在とを招いている。 世界の婦人たちが、世界の未亡人の問題を、単にそれら不幸な女性だけに直接な境遇の問題として扱・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・――櫛田さんは何として娘さんを支えるだろう。櫛田さんの母としての心、娘さんの心もち、どちらも、その期待、その不安によってわたしの実感にしみとおるものだった。その辛さにかかわらず若い娘さんのその心を共に生きて、守ってやっている母としての櫛田さ・・・ 宮本百合子 「その人の四年間」
・・・こうして、人間の歴史は最も高価な実験費をかけて、より理性的に、より叡智的に組織され、人間の幸福を支えるに足る社会をつくり出してゆこうと努力している。 世界のこういう現実を、わたしたちが経験した戦争の十数年間、最悪の数年間と思いくらべたと・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・ 澄んだ眼と高い額とは神に仕えるにふさわしい崇尊さを顔に浮べて居た。 白い衣の衿は少しも汚れて居なかった。 しずかに落ついて話すべき時にのみ話した。 四十五六で、白衣の衿の黒いのを着て奥歯に金をつめてどら声でよくしゃべる一人・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
出典:青空文庫