・・・て仇にもあらぬ壁に物いふ示人天皇は神にしますぞ天皇の勅としいはばかしこみまつれ 極めて安心に極めて平和なる曙覧も一たび国体の上に想い到る時は満腔の熱血を灑ぎて敬神の歌を作り不平の吟をなす。慷慨淋漓、筆、剣のご・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・誰だっていいレコードを作りたいからそれはどうしても急ぐんだよ。けれども僕たちの方のきめでは気象台や測候所の近くへ来たからって俄に急いだりすることは大へん卑怯なことにされてあるんだ。お前たちだってきっとそうだろう、試験の時ばかりむやみに勉強し・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・ このようにあくどい動きのある側らで、三十数名の婦人代議士たちは二十五日に女ばかり集って、市川房枝女史の世話役で婦人代議士のクラブを作り「女は女で」やろうとしていることが告げられている。 婦人代議士たちは、いま危険な立場にある。自由・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・「どうも思わない。作りたいとき作る。まあ、食いたいとき食うようなものだろう。」「本能かね。」「本能じゃあない。」「なぜ。」「意識して遣っている。」「ふん」と云って、小川は変な顔をして、なんと思ったか、それきり電車を降・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・そこでは吐き出された炭酸瓦斯が気圧を造り、塵埃を吹き込む東風とチブスと工廠の煙ばかりが自由であった。そこには植物がなかった。集るものは瓦と黴菌と空壜と、市場の売れ残った品物と労働者と売春婦と鼠とだ。「俺は何事を考えねばならぬのか。」と彼・・・ 横光利一 「街の底」
・・・この別荘造りの下宿にかね。」「ええ。」「お前さんの外にも、冬になってあの家にいる人があるかね。」「わたくしの外には誰もいません。」 己はぞっとしてエルリングの顔を見た。「溜まるまいじゃないか。冬寒くなってから、こんな所にたっ・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・ デュウゼは薔薇の花を造りながら、田舎の別荘で肺病を養っている。僕はどうかして一度逢ってみたいと思う。でなくとも舞台の上の絶妙な演技を味わってみたいと思う。 シモンズの書いた所によると、デュウゼは自分の好きな人と話をする時には、・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫