・・・ 二三年勤める積で、陸軍には出た。大尉になり次第罷めるはずである。それを一段落として、身分相応に結婚して、ボヘミアにある広い田畑を受け取ることになっている。結婚の相手の令嬢も、疾っくに内定してある。令嬢フィニイはキルヒネツグ領のキルヒネ・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・ 医術というものは結局こういう造化の天然の医術の幇助者の役目を勤めるものであるらしい。名医はすなわちもっとも優秀な造化の助手であるかと思われる。 肉体における医者に相当して、精神の医者もあるはずである。そういう医者に名医ははなはだま・・・ 寺田寅彦 「鎖骨」
・・・しかし私の望むところは、そういう安直な見どころをむしろ故意になくするように勉めるくらいにしてもらいたいと思うのである。元来簡単な「言葉」で云い表わす事の出来ないある物を表わすための「美術」ではあるまいか。賞めたくて堪らないが賞め場所の見付か・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・それには、もっとデリケートな調節器官が入用であって、その大切な役目を務めるのが弓を持った演奏者の手首であるらしい。普通の初等物理学教科書などには弦が独立した振動体であるようなことになっているが、あれも厳密に言えば弦も楽器全体も弓も演奏者の手・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・刀身の抜きさしにも手首の運動が肝要な役目を勤める。また真剣を上段から打ちおろす時にピューッと音がするようでなければならない。それにはもちろん刃がまっすぐになることも必要であるが、その上に手首が自由な状態にあることが必要条件であるように思われ・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・この謎の解かれる未来は予期し難いが、これを解かんと努めるのもあながちむだな事ではあるまい。 寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」
・・・としての役割をも勤めるのである。厳父の厳と慈母の慈との配合よろしきを得た国がらにのみ人間の最高文化が発達する見込みがあるであろう。 地殻的構造の複雑なことはまた地殻の包蔵する鉱産物の多様と豊富を意味するが、同時にまたある特殊な鉱産物に注・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・自然の神秘とその威力を知ることが深ければ深いほど人間は自然に対して従順になり、自然に逆らう代わりに自然を師として学び、自然自身の太古以来の経験をわが物として自然の環境に適応するように務めるであろう。前にも述べたとおり大自然は慈母であると同時・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・家庭に起こりつつある、一見平凡でそうして多数の人が軽々に看過していて、しかも吾人の現在の生活に対して重要な意味のあるような事実を指摘し報道して、いくらかでも人々の精神的の幸福を増し不幸を予防するように努めるだけは努めたいものである。 裏・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・ 数十種の実験を皮相的申訳的にやってしまうよりも、少数の実験でも出来るだけ徹底的に練習し、出来るだけあらゆる可能な困難に当ってみて、必成の途を明らかにするように勉める方が遥かに永久的の効果があり、本当の科学的の研究方法を覚える助けになる・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
出典:青空文庫