・・・一、家をたてたい一心、一、十六七の時、母を説いて学問――に努める。一、バチェラーに貰わる。一、馬から落ちたところが打身内攻し足が引つれ、苦しむ。一、六年間床についたきり。一、恢復して伝道、〔欄外に〕Leadi・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・傍、女性の方も、学校の教師になるなり、事務所に務めるなり何なりして、力相当の蓄積をする。そして、二年なり三年なりの後、安全な基礎に立って生活を始める。日本の風習では、そんな場合、何故、娘なり息子なりの両親、同胞が助けないか、と云う質問、何故・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ 其故自分は、彼に対して友達であろうと努めるのである。 それがいいのだ。彼と面を合わせて居るとき、自分はどの位、落付いて居られるかと云うことを考えると、自分だけの裡に感じて居る苦痛などは、要するに自分自身の生長の力と異わない。ジイッ・・・ 宮本百合子 「「禰宜様宮田」創作メモ」
・・・ そう、じゃ私も母さんにいって勤めるようにしちゃうわ。そんな会話が、あるいは上級生の間にあるだろう。遠足か何かにゆくように、ねえ母さん、誰さんも、誰さんも、ゆくのよ、いいでしょう? ねえ。そういわれた母親たちは、それじゃあまア、すこし勤めて・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
・・・ 図書館に勤めるようになった一人の若い作家志望の女が、その一見知識的らしい職業が、内実は無味乾燥で全く機械的な資本主義社会の経営事務であることを経験し、そこの官僚的運転の中で数多い若い男女の人間が血の気を失い、精神の弾力を失ってゆくのを・・・ 宮本百合子 「見落されている急所」
・・・忠利は初めなんとも思わずに、ただこの男の顔を見ると、反対したくなったのだが、のちにはこの男の意地で勤めるのを知って憎いと思った。憎いと思いながら、聡明な忠利はなぜ弥一右衛門がそうなったかと回想してみて、それは自分がしむけたのだということに気・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・それ故に予は次第に名を避くるということを勉めるようになった。予が久しく鴎外漁史という文字を署したことがなくて、福岡日日新聞社員にこれを拈出せられて一驚を喫したのもこれがためである。然るに昨年の暮におよんで、一社員はまた予をおとずれて、この新・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・ 花房が大学にいる頃も、官立病院に勤めるようになってからも、休日に帰って来ると、先ずこの三畳で煎茶を飲ませられる。当時八犬伝に読み耽っていた花房は、これをお父うさんの「三茶の礼」と名づけていた。 翁が特に愛していた、蝦蟇出という朱泥・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・御用を勤める時の支度で、木綿中形の単物に黒繻子の帯を締めていたのである。奥の口でりよは旅支度の文吉と顔を見合せた。そして親の病気が口実だと云うことを悟った。 りよと一しょに奥を下がった傍輩が二三人、物珍らしげに廊下に集まって、りよが宿の・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・ 同心を勤める人にも、いろいろの性質があるから、この時ただうるさいと思って、耳をおおいたく思う冷淡な同心があるかと思えば、またしみじみと人の哀れを身に引き受けて、役がらゆえ気色には見せぬながら、無言のうちにひそかに胸を痛める同心もあった・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
出典:青空文庫