・・・然るを勝氏は予め必敗を期し、その未だ実際に敗れざるに先んじて自から自家の大権を投棄し、ひたすら平和を買わんとて勉めたる者なれば、兵乱のために人を殺し財を散ずるの禍をば軽くしたりといえども、立国の要素たる瘠我慢の士風を傷うたるの責は免かるべか・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・ 何とかいう芝居小屋の前に来たら役者に贈った幟が沢山立って居た。この幟の色について兼ねて疑があったから注意して見ると、地の色は白、藍、渋色などの類、であった。 陶器店の屋根の上に棚を造って大きな陶器をあげてある。その最も端に便器が落・・・ 正岡子規 「車上の春光」
・・・あしゃア実は爰処で陶器をやるつもりなんだが。」「陶器とはなんぞな。」「道後に名物がないから陶器を焼いて、道後の名物としようというのヨ。お前らも道後案内という本でも拵らえて、ちと他国の客をひく工面をしてはどうかな。道後の旅店なんかは三津の浜の・・・ 正岡子規 「初夢」
・・・ これほどの広い地域をみたす日本のこく倉の稲田は、つまるところ、現在の世の中のしくみでは、やはり一つの最も投機的な商品ではないのだろうか。もし、この広大な稲田全体が、いつわりない農民の生産として、それを作る農民の生活にもかえってゆくもの・・・ 宮本百合子 「青田は果なし」
・・・本年は、画期的な生産拡大による労働力の需要増と、物価騰貴、熟練工引止めなどの理由から、一般に賃銀は高くなった。もっとも低下していた昭和七年頃に比べると遙かに上っているが、男と女との差は埋められていないのである。 婦人の性の本来は生殖に重・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・ 肥料なんど七割近い騰貴で、問題にならぬ。税の滞納は村の九分通りだそうである。初めのうちは皆心配したり、びくついていたが、村じゅうこうなっては却って力がついて、一つかたまって減主義的な方法で耕作するために、随分富農や反動分子との闘争を経・・・ 宮本百合子 「今にわれらも」
・・・飯田氏は、一ヵ年間の苦心になる作品であり、冬期は全く撮らなかったと言われた。画面は美に必要な光線が不足だからなのであろう。五月と秋晴れの一ヵ月の午前だけとられたそうだ。建物も整然、子供らも整然。整然。すべてこれ優等児製造はかくの如き文化性か・・・ 宮本百合子 「映画の語る現実」
・・・買いためなどの出来るのは資本家地主であり、戦争とそのために起った物価騰貴で儲けるのは即ち彼等であることを『キング』の記事は露骨に告げているのである。建国祭が近づくが、日本の専制的な支配権力が大衆を無知と無気力におくためにはどういうものを読ま・・・ 宮本百合子 「『キング』で得をするのは誰か」
・・・ところが、その船の修繕には二ヵ月もかかって、その冬期は見す見す何杯かのがしてしまったが、手間どったには理由があった。 話はヨーロッパ大戦当時にまで遡る。当時そこへ新たにドックをこしらえて儲けた某という人物があった。大戦終局とともに持ちき・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・一日一日と騰貴する物価に、決して追いつくことのない待遇改善の実情は、妻であり母である女性の辛苦を言語に絶した状態においています。若い勤労婦人にとって、現在のような経済上の危機は、彼女たちのモラルの危機としてあらわれています。更に、まだ全然社・・・ 宮本百合子 「国際民婦連へのメッセージ」
出典:青空文庫