・・・ リアルの最後のたのみの綱は、記録と、統計と、しかも、科学的なる臨床的、解剖学的、それ等である。けれども、いま、記録も統計も、すでに官僚的なる一技術に成り失せ、科学、医学は、すでに婦人雑誌ふうの常識に堕し、小市民は、何々開業医のえら・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・欅の樹で囲まれた村の旧家、団欒せる平和な家庭、続いてその身が東京に修業に行ったおりの若々しさが憶い出される。神楽坂の夜の賑いが眼に見える。美しい草花、雑誌店、新刊の書、角を曲がると賑やかな寄席、待合、三味線の音、仇めいた女の声、あのころは楽・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・信州における自分というものが、東京の自分のほかにもう一つあって、それがこの一年の間眠っていて、それが今ひょっくり目をさましたのだというような気がするのであった。 このように、すべてのものが去年とそっくりそのままのようであるが、しばらく見・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
・・・しかしコリントゲームの方には公算的統計的の要素が入り込む。前者では因果の連鎖が一筋の糸でつづいているが、後者では因果の中間に蓋然の霧がかかっている。それで、前者では練習さえ積めばかなりの程度までは思いのままにあらゆる有様を再現することが出来・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・もっとも、統計で見ると内国産棉実千トン弱とあるから、まだどこかで作っているところもあると見えるが、輸入数十万トンに対すればまず無いも同様であろう。 花時が終わって「もも」が実ってやがてそのさくが開裂した純白な綿の団塊を吐く、うすら寒い秋・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・ もし出来るならば、多数の歌人が銘々に口調のいいと思う歌を百首くらいずつも選んで、それらの材料を一纏めにして統計的に前述の波数や波長の分配を調べてみたら何かしら多少ものになるような結果が得られはしないかと考えるのである。 このような・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・数年前の統計によるとフィルムの生産高の数字においてはわが国ははるかにフランスやドイツを凌駕しているようであるが、これらの映画の品等においてはどうであるか。たくさんの邦産映画の中には相当なものもあるかもしれないが、自分の見た範囲では遺憾ながら・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・多数の研究者のうちで、何かしら一つの仕事に成功して学位を得る人の数が研究者全体の数に対する統計的比率を不変と仮定しても、研究者の総数がN倍になれば博士の数もN倍になる。のみならず、競争が劇しくなるために研究者の努力が劇しくなればこの比率も増・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・それで、これは偶然の暗合であるか、あるいはこれらの間にいくぶんかの必然的関係があるかをできるなら統計学的の考えから決定したいと思ったのである。 この統計の基礎的の材料として第一に必要なものは火山名の表である。しかしこの表を完全に作るとい・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・ところが、抵抗力の強い人は罹病の確率が少ないから統計上自然に跡廻しになりやすい、そうしてそういう人は罹っても少々のことではなかなか最初から降参してしまわない。そうして不必要で危険な我慢をし無理をする、すれば大抵の病気は悪くなる。そうしていよ・・・ 寺田寅彦 「変った話」
出典:青空文庫