・・・品行が方正でないというだけなら、まだしもだが、大に駄々羅遊びをして、二尺に余る料理屋のつけを懐中に呑んで、蹣跚として登校されるようでは、教場内の令名に関わるのは無論であります。だからいかな長所があっても、この長所を傷ける短所があって、この短・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ この間ある若い婦人のための文学投稿雑誌に、生活ルポルタージュの文章をつのって、偶然その選が私に当てられた。そのいくつかの原稿を読んで感じたことは、若い女のひとたちが、生活の日々に起るさまざまの事件やそこに登場して来る人々に対する好意や・・・ 宮本百合子 「女の自分」
・・・『主婦之友』、『婦人倶楽部』などの短歌欄に投稿している婦人の数に比べて、この二人という数は何百分の一に当るでしょうか。『集団行進』の中に辛うじて二人の先達を送った婦人の大衆はまだまだ「やさしい婦人の歌心」という程度のところに引止められていて・・・ 宮本百合子 「歌集『集団行進』に寄せて」
・・・ 同じ雨の朝を、登校する小学生のすべてが、同じ感情で眺めるであろうか? ゆとりのある家の子供である一郎は、雨がふっているのを見てひどく勇み立った。何故ならば、一郎はこの間誕生日の祝いにいいゴム長を一足買って貰った。雨がふったから今日こそ・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・ 明治十二年に茨城県の国生という村の相当の家に生れた長塚節は水戸中学を卒業しないうちに病弱で退学し『新小説』などに和歌を投稿しはじめた。 正岡子規が有名な「歌よみに与ふる書」という歌壇革新の歌論を日本新聞に発表したのは明治三十一年で・・・ 宮本百合子 「「土」と当時の写実文学」
・・・大柄のおとなしい縹緻よしで、受け口のつつましい村上さんに意地わるをする武さんという娘は、その頃珍らしい贅沢な洋服姿の登校であった。襞のどっさりついた短い少女服のスカートをゆさゆささせながら、長い編上げ靴でぴっちりしめた細い脚で廊下から運動場・・・ 宮本百合子 「なつかしい仲間」
・・・ これまでは、このルポルタージュの投稿の中に、必ず一つや二つは療養生活をよぎなくされている若い女性の文章があったのに、今度編輯局から送られて来たのにはそういうのが一つも加わっていません。どういうわけだろうかと思います。体の丈夫な者、働く・・・ 宮本百合子 「ルポルタージュの読後感」
出典:青空文庫